青き灯火 —ウミホタル観察会に参加して— (2026年度 博物館実習 夏期一般コース 8月23日)
先日、大阪市立自然史博物館にて博物館実習に参加させて頂いた者です(複数の実習生が同日のブログを担当するようなので、個体識別のためにM大学のNと名乗っておきます)。
5日間に渡った実習では、展示エリアからバックヤードに至るまで見学させて頂いた初日に始まり、自然史に関わる様々な分野の学芸員の方々の指導のもと、普段は中々できないような貴重な経験をさせて頂きました。そんな実習の最終日にあたる8月23日、イベントの補助を担うスタッフとして、また、自然に親しむ一参加者として、私たち実習生は同博物館の友の会の行事「自作トラップでウミホタルの観察にチャレンジしよう」に参加しました。
和歌山との県境にほど近い大阪府泉南郡岬町にて行われた本イベント(以下、「観察会」と称する)は友の会の行事の中でも大人気のイベントだそうで、当日は約60名の参加者(世話役を務めた学芸員や友の会の評議員の方々、及び実習生を除く)が足を運んで下さりました。実習生は参加者への資料の配布や最寄駅から観察地である「せんなん里海公園」までの誘導などを行うとともに、参加者の皆さんに交じり、用意して頂いたトラップを使ってウミホタルの採集に臨みました。
ウミホタルと聞いて、皆さんはどのような生き物を想像するでしょうか。「海にいる、蛍の仲間?」。いいえ、違います。ウミホタルは甲殻類といってエビやカニなどが含まれるグループに属する大きさ数ミリメートルほどの生物です。二枚貝を思わせる二枚の薄い殻を持つことから貝形類と呼ばれ、刺激を与えると青く発光することで知られています。
ウミホタルは「海の掃除屋」とも称される腐肉食者の一員です。日中は砂の間に身を潜めていますが、暗くなると砂中から出てきて、海底近くの水中を泳ぎ回り、死んだ動物の肉を食べます。観察会は日没の前後に行われ、ウミホタルを捕まえるために仕掛けたトラップにはカニかまを入れ、日没後に海中に投入しましたが、これはウミホタルのこのような生態を踏まえてのことと思われます(周囲が暗い方が発光している様子を観察しやすいという理由もあるかもしれません)。
そんなウミホタルですが、実はどこにでもいる生き物という訳ではなく、住んでいる場所は明確に限定されるそうです。黒潮や対馬暖流が流れる沖縄から青森の水深20mより浅い海や、瀬戸内海の潮通しの良いきれいな砂浜に住んでいるのですが、河川の水が流れ込まない塩分の高い海域で、貧酸素水塊の影響がないところを好み、海峡部など潮流が速すぎるところでは流されてしまうなど、生息できる環境条件が限られることが分かっています。
ウミホタルは敵に捕食されそうになったときなど、身の危険を感じると大量の発光液を出します。しかし、なぜ、何のためにウミホタルが光るのかは、実はまだよく分かっていません。捕食者の口を光らせて脅かし、吐き出させるという説や、仲間に危険を知らせ、敵を大型の魚に襲わせることにより仲間を守るという説、オスとメスが繁殖のために互いの居場所を知らせる合図に使うといった説が唱えられているものの、これといった明快な答えはまだ得られていないそうです。このように、その存在自体はよく知られている対象や現象であっても、まだまだ分からないことがたくさんあるということは、実は自然科学の世界では珍しいことではありません。
ウミホタルの発光メカニズム、すなわち、「ウミホタルがどのようにして光るのか」は、ある程度解明されています。詳細は割愛しますが、ルシフェリンとルシフェラーゼという物質の間で起こる化学反応(酵素反応)により、化学エネルギーの一部が光エネルギーに変換されることで、青い光が生じるのです。このように、科学という営みは「どのようにして」という問い(How?)に答えることは得意ですが、「なぜ」という問い(Why?)に答えることは苦手です。自然科学の中でも生物学は例外的に「なぜ」や「なんのために」といった形をした問いを立てることが多い学問ですが、こうした問いに対して決定的な答えを出すことは容易ではないことがほとんどです。
ウミホタルの他にも数多くの発光する生き物の存在が知られていますが、やはり、「なぜ、何のために光るのか」についてはよく分かっていない場合が少なからずあります。光る目的はひとつではないのかもしれませんし、そもそも光ること自体に大した意味はなく、「ただ代謝の過程で生じた余分なエネルギーを光という形で放出しているだけなのではないか」という説が唱えられている生き物もいます。ウミホタルの場合は、光ることには何らかの意味(適応的な意義)がありそうですが、やはり、何のために光るのかは必ずしも明確とは言えません。「捕食者である魚に呑み込まれたとき、その口の中で光ることによって、本当に魚から逃げおおせる確率が有意に高まるのか」という点については、検証の余地があるでしょう。また、「敵の敵」をおびき寄せて仲間を守るという説については、「ウミホタルのような社会性を持たない(と考えられている)生き物において、そのような利他的な行動を取ることにどのような進化生態学上の適応的意義があるのか」という疑問が湧きます。更に、発光が繁殖行動の一環であるという説についても、物理的な刺激により容易に光る点や、雌雄が同じように発光しているように見える点など、疑問点が多く残ります。ウミホタルが放つ神秘的な青い光は、このように一筋縄では解き明かせない謎を孕んでいるのです。
閑話休題。ウミホタルについての生態学的な話はこれくらいにして、話題を戻しますと、「せんなん里海公園」にて行われたウミホタルの観察会では、多くの参加者の方が自作トラップにてウミホタルを採集することに成功しました。夏休みの終盤ということもあり、観察会には多くの親子連れの方が参加されていて、ウミホタルが放つ青い光を目の当たりにした子どもたちの間からは歓声が上がっていました。
青き灯と なりて滴る うみほたる 囲む子らの目 らんと輝く
参考文献
鍋島靖信 2021. 今日から始める自然観察 青く輝くウミホタルの観察. 自然保護 No.582: 22-23.


