実習生・職業体験生の日誌

博物館実習ブログ 2025/1/13 昆虫標本の整理

 こんにちは,博物館実習3日目,1月13日のブログを担当します,京都府立大学のK.I.です.

私たちの班は,この日昆虫研究室の藤江先生の指導のもとで,昆虫標本の整理を行いましたので,このブログで簡単に作業内容を紹介しようと思います.

昆虫標本の整理,というのはさまざまな種類の昆虫が入っている標本箱から同種の昆虫をピックアップし,ある1つの種,あるいは分類学的に近しい種専用の標本箱に入れる,という行為なのですが,標本の博物館資料としての価値を向上させることためにはとても重要なことなのです.


 その理由について具体的に説明します.まず,大阪市立自然史博物館では,なるべく1つの種類の(昆虫)標本を同じ場所に集めて保管しています.こうすることによって,特定の種の昆虫に興味を持った人が,効率的に多数のその種の標本にアクセスすることができるようになっています.ところで,大阪市立自然史博物館には莫大な数(100万匹〜,大サイズドイツ箱約1.5万箱)の昆虫標本が収蔵されていますが,これらは全てが学芸員によって採取されたものというわけではなく,個人が収集したのち博物館に寄贈されたものが大きなウェイトを占めています.しかし,困ったことに,個人が収集した標本というものは,大抵の場合1つの標本箱にさまざまな種類の昆虫が混ざった状態で入っています.これをそのまま収蔵庫に収蔵してしまうと,種と場所が関連付けられていないので,ほとんど利用することができなくなってしまいます(1つの種を探し出すのに毎回たくさんの標本箱の中身をあらためるのは現実的ではありませんから).そこで,寄贈された標本は可能な限り近い種ごとに集めてから収蔵庫に保管する必要があるわけなのです.

 さて,今回私たちの班はクワガタムシとタマムシ,オオキノコムシの仲間の仕分けを行いました.

 まず,クワガタムシですが,これはすでにクワガタムシ科という括りである程度集められた標本箱から,同一種のみが入った標本箱を作り出すという作業でした.クワガタムシと言ってもたくさんの種類があり,素人にはなかなか判別がつかないものも多いので,今回は(手加減してもらって?)ミヤマクワガタやコクワガタ,ヒラタクワガタなどの比較的わかりやすい種の分別を行いました.それにしても,本当にたくさんクワガタ標本があるのです,仕分けても仕分けてもまだたくさんあります.普段大量のクワガタムシを見ることはあまりないので,とても楽しいひとときでした.このことについて藤江先生に聞いたところ,クワガタムシは割合にどんな人でも見つけたら大抵採集するので,博物館にも標本が集まりやすいとのことでした,なるほど納得です.
 余談ですが,無理のある収納をされていた標本や虫に食われてしまっている標本は脚や首がもげてしまっていることが多々ありました.こういった標本はニカワで接着して修復します(もしそれが無理な場合は三角紙等に入れて落とし主の近くにそれとわかるようにして刺しておきます).ニカワと聞くと古典的な感じがするかもしれませんが,人類が今の形の昆虫標本を作り始めた1700年代から使われていて信頼性が証明されている接着剤なので,長期保存の観点から見るとより最近になってから使われ始めた木工用ボンドなどよりも好ましいのだそうです.

 次に,オオキノコムシとタマムシの仲間の仕分けです.これらの標本は寄贈されてそのままのまだコレクターの方が使っていた標本箱に入っているもので,そこから似たもの同士を同じ紙船(白い上部が開口した紙箱の底に発泡素材が貼ってあるもの)に刺してまとめていく,という作業でした.細かい仕分けはまた後でするのでしょうけれど,その際に小さい標本を大量に抜き差しして移動させるのは面倒かつ破損のリスクがあるので,容易く一気に移動させることができるように多数の小さい標本を分類学的に近いものを集めてモジュラー方式にまとめる,ということです.
 これは標本がバラバラに刺されていた場合かなり大変な仕事になるのですが,幸い今回取り扱った標本はすでにある程度分類された状態で箱に入っていたので,ただただ標本を移動させるという単純な作業でした.この作業を行なっていると,たまに台紙から小型の昆虫が剥がれ落ちるのですが,そういった場合は藤江先生にニカワで貼り直してリカバリーしてもらいました.
 とても綺麗な外国産のタマムシや,珍種のエゾアオタマムシなどが見れて素敵な時間を過ごすことができました.

 以上のように,13日の実習では昆虫担当の学芸員の仕事の一部を体験することができました.とても地道な仕事なのですが,標本を整理する学芸員の人数が大量の標本に対応できていないようにも感じました.この問題を解決するためには,博物館の予算を増やす必要がありますが,そのためにはよりいっそう活発に教育普及活動を行ったり,大きな注目を集める学術的な成果をたくさん挙げたりなどすることによって博物館の存在意義をアピールしなくてはいけないのかもしれません.多分.しかし,そのためには今より大人数の学芸員がいた方がよく(あるいは労働環境を超ブラック化する)…というふうになかなかうまくいかない問題なようです,というふう結んでこの文章を終わりとします.

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