2025年度 秋季博物館実習 4班4日目(10月11日)

みなさんこんにちは。博物館実習4班2日目のブログを担当します。筑波大学のT. Kです。

本日は昆虫研究室の藤江学芸員のご指導の下、昆虫標本に関わる実習を行いました。

実習4日目の午前は、収蔵庫にて寄贈された標本の整理作業を行いました。
個人で長年保管されていた標本が入った印籠箱(木製の箱)を開け、博物館で標準的に使われているドイツ箱へと移し替える作業です。印籠箱をそっと開けると、中からは小さな昆虫標本やラベルが丁寧に収められており、寄贈者の方の情熱が伝わってきました。一方で、箱の中には虫に食われてしまった標本や箱の中に落下してしまい、どの標本だったのかわからなくなってしまった標本も見つかり、保存環境の違いが標本の命運を大きく左右することを目の当たりにしました。博物館で使用されているドイツ箱は密閉性が高く、防虫剤や乾燥剤を適切に使うことで長期保存が可能です。標本を一つひとつ丁寧に移し替えながら、「この箱の中で標本たちは何十年、あるいは何百年も未来へ残っていくのだ」と思うと、自然と手が慎重になりました。

また、収蔵庫内は温湿度が常に一定に保たれており、防虫剤のにおいがふんわりと漂っていました。中で作業をしてみて、人が快適に過ごす空間とは異なる「資料のための空間」であることがよく分かりました。収蔵庫は、まさに博物館の心臓部といっていいのでしょう。ここでの管理体制こそが博物館資料の価値を支えているのだと実感しました。

また、特に印象的だったのは、寄贈者の方のラベルやメモの細かさです。採集日や採集地が明確に記されており、標本一つひとつに「人の物語」が宿っているように感じました。こうした個人の努力と情熱がなければ、今私たちが扱っている多くの資料は存在しなかったかもしれません。その一方で、個人での保存には限界もあります。博物館がそれを受け継ぎ、専門的な環境で守ることによって、標本は“個人の財産”から“公共の記録”へと生まれ変わるのだと感じました。今後、個人コレクターと博物館が連携できるような仕組みが広がれば、日本全体の標本資料の保存にも大きく貢献できるのではないかと思いました。

午後は、京都府内の公園で1年間にわたって行われたトラップ調査による昆虫標本のデータ化作業を担当しました。
標本一つひとつに番号を付け、採集日や種名をExcelに入力していく作業です。見た目は地味ですが、これが研究の基礎を支える非常に重要な工程なのです。入力していくうちに、同じ採集地でも季節によって現れる種が異なることに気づきました。データの羅列の中にも、季節の移り変わりや生態系の変化が垣間見えるようでした。

また、使用しているデータ入力のフォーマットも非常に精密に作られており、採集日や採集地点だけでなく、採集方法や分類群、同定者など、細かな情報まで記録できるようになっていました。単なる表計算ではなく、「誰が見ても同じように理解でき、必要な情報を正確に取り出せる」ように考え抜かれた設計であり、データベースという仕組みに込められた情報共有への気概というものを強く感じました。今後、他の研究者や機関がこのデータを活用することを見据えた仕組みづくりに、博物館の使命感のようなものを感じました。

この作業を通して、「標本はモノではなく、情報である」という言葉の意味を実感しました。単体ではただの標本でも、何百、何千という標本が集まり、正確に記録されることで、その地域の生態や環境の変化を読み解くデータとなります。

午前中に行った標本の保存作業が「アナログな保全」だとすれば、午後のデータ化は「デジタルな継承」でしょうか。どちらも時間と手間がかかる地道な仕事ですが、この二つがつながることで初めて標本は「生きた情報」として未来へ残っていくのだと強く感じました。そんなことを思いながら、気づけば時間を忘れて作業に没頭していました。

4日目は、博物館の「守る」と「伝える」という二つの側面をどちらも体感できた一日でした。
一見地味な作業の積み重ねが、未来の研究や来館者の学びへとつながっていく。そのことを肌で感じ、博物館で働く人々の努力の尊さを改めて知ることができました。