2022年度夏期博物館実習3日目(8月26日)
大阪市立大学のK.T.です。
博物館実習3日目、植物研究室の佐久間さんが私の班を担当してくださいました。
午前中は特別収蔵庫にて植物標本を見せてもらい、管理事情について教えてもらいました。植物標本は三木茂さんのものを観察しました。標本は新聞に包まれていたのですが、その新聞が本当に古いもので当時の情勢や広告事情などを読み取れるもので、標本と新聞で二度楽しめました。昔の標本は、標本そのものとそれを包む新聞、二つの価値あるものを保管しているんだなと思いました。これは展示ではなく、裏で保管されている標本を見ないと気づけなかったことで、貴重な経験ができました。
自然史博物館ではよく標本を誰かは見ているため(ひと月丸々放置される標本ロッカーがない)、自然と害虫チェックができており、密閉保管じゃなくてもいいと教えてもらいました。地方の博物館などでは、長い間チェックされない標本も多く、密閉保管されているそうです。その場合、標本を見たいときは一度開封して標本を観察、その後は再度密閉して戻さなければいけないという手間があるそうです。私たちがたくさん見させて頂いた標本たちは、昔のものとは思えない状態の良さで、それはすべて害虫から標本を守る収蔵庫の環境であったり、学芸員さんの努力の上で成り立っていると実感しました。
さて、そんなたくさんの標本が保管されている収蔵庫ですが自然史博物館ではそれが地下にあります。自然史博物館の少し先には大和川があり洪水によるリスクも否定できません。それなのに何故地下にあるのでしょうか?皆さんはどう思われますか?収蔵庫が地下にある主な理由は二つ。一つ目は、地震に備えてです。まず大前提として、1階と2階はアクセスしやすいため、お客さんに使いたいというのがあります。そうなると収蔵庫は3階や4階に設置することになります。しかし地震が発生した場合、建物の上の階ほど揺れます。つまり、3階や4階に収蔵庫を設置するのはたくさんの標本にとってかなりリスクがあるのです。二つ目の理由はは、柱です。3階や4階になると柱がいくつもあることになります。とても大きなホネなどの標本は、柱があると設置・保管できません。これらの二つの理由を主として、収蔵庫は地下にあるのです。さらに、襲いかかりうる災害は地震だけではありません。火災も考えられます。スプリンクラーは水を放射しますがそれは標本を台無しにしてしまいます。また、天井に張り巡らすスプリンクラーの水道管からある日水漏れが起こってしまう可能性もあります。そこで窒素を充満させるという消化システムが導入されています。このように資料保存のリスクは害虫だけでなく、災害もあるのです。そうしたことを午前中に学ばさせて頂き、午後は実際に被災した標本、「被災自然史標本」に触れさせて頂きました。
午後は、被災自然史標本について学び、処置済みの送り返す被災自然史標本の整理作業を行いました。博物館が被災した場合、その博物館からの要請で複数の博物館に被災自然史標本が送られます。被災自然史標本は濡れてしまったものや泥まみれになったものなど様々。そして各博物館が被災自然史標本に修復処置や汚れを落とす処置などを行い、被災した博物館に送り返す。このような仕組みで被災自然史標本の救済を行っているそうです。実際に東日本大震災のとき、岩手の博物館が他の博物館らに呼びかけを行ったそうです。このような博物館のコミュニティを聞いて、私は感動しました。各博物館が標本を守るために協力しあっており、単純なことかもしれませんがそれでもその相互協力にはグッときました。今回は、元は被災し泥まみれ状態だった、既にある程度標本救済処置が済んでいる植物標本を、元の博物館に送り返すための整理作業をさせて頂きました。標本の救済処置が済んでいるといっても植物標本が貼り付けられている台紙は泥が付いた痕跡や乾いた泥がまだまだ付いていました。しかし、標本そのものはだいぶ泥が落ちたんだろうなと感じる状態ではありました。処置技術の凄さを感じました。
また、被災自然史標本自体は意外と救済できるということをビデオを通して学び、驚きました。正直、泥だらけの標本なんてもう無理なんじゃないのか?と予想していたので、ビデオで各被災状況によってそれぞれの救済、修復処置があるということを初めて知りました。そして一番難しいのは修復に至る前段階です。標本は博物館だけでなく個人によって保管されているものもたくさんあります。被災した際、がれき等の中からそれらを見つけるのは難しい。仮に個人の家から泥だらけ、水浸し等の標本が出てきても、修復できると知らない人からすればそれはゴミとして処理してしまうことも珍しくありません。被災地から発見し、保護する段階がなによりも難しいのではないかと思いました。個人が管理していたものは結構気づかぬうちに捨てられているのではないかなと感じました。
整理していた標本のうち、60年前のナガサキシダの標本を顕微鏡で観察させて頂きました。衝撃的でした。ものすごく鮮明に胞子のう等が確認できたのです。60年経ってもこんなに普通に観察できるとは予想していませんでした。もちろん昔の標本に価値があるとは分かってはいましたが、顕微鏡でしっかり観察可能ということを知り、改めて標本としての価値を痛感しました。
作業や学んだことがすごく濃かったのでここまで長くなってしまいましたが、一日を通して一番圧倒されたのは佐久間さんの知識量です。班の実習生の専門分野、それぞれについてお話を広げてくださり、すごいなと思いました。私は班で唯一の文系で、自然史自体には関わりのないような専門分野なのですが、そんな私の専門分野と自然史博物館を結びつけお話をしてくださり、すごく嬉しかったのと同時に、自分が学んでいることも博物館に還元できるんだなと思うことができました。ここには書き切れないくらいたくさん会話をしてくださって、それを通して新たな知識を得ることができたし、班員の様々な質問にもすべて答えてくださって本当にただただ楽しかったです。知ってはいましたが、改めて「学芸員」は「研究者」であることを知識や会話を通して実感することが多く、お世辞抜きで本当に尊敬の念が深まりました。こういったブログでただただ肯定するのは面白みにかけるかも知れませんが、一日を通して強くそう感じたので正直に書かせて頂きました。また、この日は佐久間さんが何度も館内放送にて呼び出しされていたのですが、それは質問に回答してほしいという旨の呼び出しでした。これは実習が始まってから知ったのですが、学芸員さんは日々、電話もしくは直接質問に来られる方に対応しているのです。そうした裏側をたくさん知ることができて、本当に良い経験でした。せっかく色んな植物標本に触れたのに、この日はあまり写真を撮らなかったことが唯一悔やまれます。しかし、3日目も1日目、2日目に続いて楽しみながら学ぶことができました。