2022年度冬季博物館実習3日目(1月9日)
こんにちは。奈良女子大学のA.Yです。
実習3日目の今日は、骨格標本を作製する過程の1つである骨の水洗いを行いました。
まず骨格標本を作製するための対象に関してですが、近隣の動物園で何らかの理由で亡くなった個体や、交通事故で亡くなった個体を引き取ることで入手するそうです。こうして個体を入手した次は、骨格標本を作製するうえで邪魔になってしまう部位を除去しなければなりません。これにはいくつかの方法がありますが、
1. 水につけて腐らせておく
2. 砂場などに埋めて微生物や虫に食べてもらう
といった2種類の方法がよく使われるそうです。ただ2に関して、埋める砂場として海辺の砂浜を選ぶ場合、分解が比較的早く進むため埋める期間の長さに注意が必要なようです。今回実習で用いた骨は2の方法が行われていました。
説明の後、いよいよ自分たちの手で骨洗いの作業に移りました。骨洗いの流れとしては砂場に埋められていた状態の骨をネットから取り出し、歯ブラシやスケーラーを用いて虫の死骸・筋や余分な脂肪分を洗い流すといった流れです。ただ、骨を磨いても展示で見るような白い色にはならず、茶色系統の色味でした。これは漂白作業の有無による違いだそうです。展示用の骨は見え方にも配慮し、漂白の作業まで行っているとは初耳でした。
私が担当した部位はキリンの脚、頚椎、オットセイだったのですが、特にオットセイの骨洗いに移った際、少し鼻につく匂いを感じました。脂肪分、魚食、何が匂いの原因なのか分かりませんでしたが、海の生き物は特に匂いがきついとW学芸員もおっしゃっており、どれだけ骨を洗っても匂いが取れなかったことも併せて考えると、骨自体が匂いを発しているというよりも、骨に染み込んだ何らかの成分が匂いの発生源になっているのだろうなと思いました。
骨洗いを進める中で、骨の両端は細かな凹凸が多く、洗浄するのに苦戦しました。これに加え、オットセイのように比較的体サイズは大きな生き物でも、ゴマ粒のような極めて小さい骨もあり、慎重さが必要とされる作業でもありました。作業を始める前に『骨をなくさない、壊さない、混ぜない』の3点に注意しながら作業を進めるようにと指示があったため注意はしていましたが、自分の小指の先にも満たないサイズの骨があるとは意外でした。実習終了後に見せていただいた耳小骨が最も小さくて繊細な構造となっており、そもそも見つけ出すこと自体が難しそうでした。
途中の説明で興味を持ったお話が2つありました。
1つ目は、骨の成長の仕方のお話です。産まれた時点では体の各部位を構成するすべての骨は大人の骨を縮小したようなものであり、成長するにつれて各骨自体が大きくなるものなのかなと思っていたのですが、サイズが変化するのは主に軟骨部分だそうです。もちろん成長に合わせて筋肉量も変化するため、これも見た目のサイズ変化の要因ともなりそうですが、軟骨部分のサイズ変化が体サイズに影響を及ぼすほどのものとは思いもしませんでした。
2つめに、産まれた時点での頭蓋骨の形状についてです。ヒトの赤ちゃんの頭蓋骨について大学で学習した際、頭蓋骨に隙間があるために頭部サイズを変化させることができ、産道を通りやすくすることができると学習した覚えがありました。そして実習で用いたキリンのこどもの頭の骨も完全には引っ付いておらず、胎生の動物は頭蓋骨が完全には引っ付いていない、ゆとりのある状態で産まれてくるのかなと考えていました。ところがW学芸員に伺ってみると、鳥類の雛もキリンと同じく、孵化した直後は頭蓋骨が完成していないというのです。実際に頭蓋骨を見なければこのような疑問点も生じなかったと思うので、実際に自分の手で実物に触れて学ぶ機会というのは学びを深めていくうえで重要だなと感じました。
実習の終わりには洗った骨を並べ、骨格の全体像を班員で予測しました。同じ頚椎に位置する骨であっても、どの場所に位置するかによって微妙に形状が変化しており、パズル感覚で楽しむことができました。
大学や博物館といった研究機関で生物の研究を行うにあたり、例えば生物の解剖を行うといった、実際に生身の生物を扱うという機会は少なからずあります。もちろん無闇に生物の命を奪うことは許されませんが、交通事故等で亡くなった生物の体を用い、研究に用いるというのは資源を最大限に活かすことのできる方法だと思います。図鑑などの紙面上ではなく、実物に触れるからこそ生じる新たな発見や疑問点はあるため、実際に自分自身の手で触れてみる機会を設けることの重要性を今回の実習で強く感じました。