SF関係の本の紹介(2018年下半期分)

【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】

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●「revisions リヴィジョンズ1」木村航著、ハヤカワ文庫JA、2018年12月、ISBN978-4-15-031352-4、800円+税
2018/12/30 ☆

 2017年の東京都渋谷区が、なぜか2388年にタイムスリップ。2388年では、人類は滅びかけており、それを救おうとする2つの勢力が戦っていた。そして、片方の勢力リヴィジョンズがタイムスリップした渋谷民に襲いかかる。少年少女に簡易型モビルスーツみたいなんを提供する他方の勢力。はたして無事に2017年に戻れるのか? 人類の未来は?
 ありがち設定の主人公の少年少女、ダメな大人達、定型パターンの悪役、謎の女。アニメらしいキャラクター設定を小説で読まされると、底が浅すぎてイライラする。よく分かったことは、やる気一杯のアムロは鬱陶しいってことだろうか。
●「GENESIS 一万年の午後」堀晃ほか著、東京創元社、2018年12月、ISBN978-4-488-01830-6、1800円+税
2018/12/28 ★

 創元日本SFアンソロジーの1巻。 GENESISというのが、オリジナルアンソロジーシリーズのタイトルで、収録作品から1つを表題作に選ぶという方針らしい。著者名は、巻頭の表題作の著者ではなく、巻末の収められた大御所の名前を筆頭にということらしい。8編のSFと、2編のエッセイが収められている。
 表題作は、人類滅亡後、人類が残した言葉を聖典として守って暮らすロボットのお話。「ブラッド・ナイト・ノワール」は、吸血鬼の末裔が地球を席巻し、希少な人類は王族として世界を治めるという不思議な未来のお話。人類後の世界という意味では似てるかも。
 高山羽根子の「ビースト・ストランディング」は、なぜか日本を中心に、異世界から怪獣がやって来る。それを持ち上げるという不思議な競技が、野球場で行われるという意味不明な設定。「生首」は、意味は分からんけど、生首が落ちては消える物語。意味不明なものがやって来るのは似てる。
 宮内悠介の「ホテル・アースポート」は軌道エレベーターのほとりでの殺人事件をとくミステリ。プライバシー対策は少しSFだけど。松崎有理の「イヴの末裔たちの明日」は技術的失業を扱った作品。ようはAIが仕事を独占して、人間が失業してしまう。一番面白かった。宮澤伊織の「創元のサンタ・ムエルテ」は、「神々の歩法」の続き。続きをもっとどんどん書いて、はやく単行本にまとめてほしい。
 最後の「10月2日を過ぎても」は、2018年に大阪府で起きた自然災害の実録風小説。6月の大阪府北部地震、7月初めの豪雨、7月〜8月の酷暑、8月に変な方向から来た台風、そして9月初めの暴風台風。この人は最外の旅に、大阪市北区の自宅から自転車で周辺を見てまわる。大阪市内北部の地理が判ってないと、読んでいてもさっぱり判らないかも。どんな大きな被害が起きてるかと物見高く見に行くのが面白い。そして大した被害がないと落胆して帰ってくる不謹慎な老人。ここまでは全然SFじゃない。が、最後の4ページだけ架空の(あるいは未来の)最外が描かれる。これは大きな被害が出たようなのだけど、それでも被害があまり大きくないと不満らしい。とことん不謹慎な老人だ。
●「マリリンピッグ」響月光著、幻冬舎、2018年12月、ISBN978-4-344-92011-8、1100円+税
2018/12/25 ☆

 第3次世界大戦で人類の大部分が滅びてから5万年後。わずかに残った人類は、遺伝子操作によって人の言葉を喋るようになった動物たちと共存していた。しかし、食料危機のために世界は第4次世界大戦の危機が迫る。その時、5万年前のある“天才”が残したプログラムが起動する。
 なんて書かれると、SFかと思う。うっかり買ってしまった。が、大人のおとぎ話だった…。世界を救うという意味不明の指令に従う登場人物たち。世界を覆って世界を救う、無限に増える食料“マンナグリン”は、どこから来たのか判らない。“マンナグリン”が世界に拡がったら、どんな自体になるかを、真面目に考察するでもない。
 まあ、大人のおとぎ話なのはいいとしよう。それでも判らないことが一つ。各章の最後に著者による注釈があって、各章で出てくる物について、物語の外から説明がなされる。それがつまらないのみならず、なぜか説教調だったりする。どういうつもりなんだろう?
●「サイファイ・ムーン」梅原克文著、集英社、2001年9月、ISBN978-4-08-774548-1、1600円+税
2018/12/24 ★

 5編を収めた短編集。最初の4編は、月の部として連作短編集のようになっている。満月の日に妙な物を見てしまうようになった3人のエピソードが順に描かれる。イメージとしては、狼男、幽霊、異次元生物との出会いかなぁ。4編目は、最初のエピソードの続き。3人がある事件の周辺で出会う。
 著者は自分の作品は、SFではなく、サイファイだと主張する。サイファイとは“大衆娯楽サイエンス・フィクション”らしい。でも、最初の4編は、ホラーっぽいライトノベルというのが事実に近い感じ。
 最後の作品は、「アルジャーノンに花束を」のネズミをニホンザルに変えてみたら?という判りやすいSF。タイトルもそのまんま。代表的なSFを取り上げて、SFではなく、サイファイだと主張するのにどんな意味があるんだろう?
●「タンブーラの人形つかい」竹本健治著、ハルキ文庫、2000年1月、ISBN4-89456-630-3、680円+税
2018/12/13 ☆

 「バーミリオンのネコ」シリーズの第2弾。スナイパーと情報屋のコンビのストーリー。とある惑星に休暇で来たコンビ。と思ったら、それは人形つかいと呼ばれる相手を倒すミッションで。
 登場人物がやたらと死ぬ。登場人物に魅力が微妙にない。そして、別の惑星の話ってことになってるけど、他にあまりSF的な感じもない。
●「零號琴」飛浩隆著、早川書房、2018年10月、ISBN978-4-15-209806-1、2300円+税
2018/12/6 ★

 <行ってしまった人たち>の遺したものに遭遇した人類は、その謎の超文明の遺物を利用して、その跡が残された<轍>に沿って拡がることに成功した。そして<轍>の各所に遺された謎の遺物、特殊楽器。特殊楽器を奏でる技芸士である主人公は、惑星<美縟>に招かれ、特殊楽器<美玉鐘>を奏でるよう依頼される。惑星<美縟>の種と<磐記>では、假面をかぶることでその役割世界に入ってしまう特殊な假面劇が演じられていた。そして、特殊楽器<美玉鐘>の復活を記念して、500年ぶりの全住民と観光客参加の假面劇が演じられようとしていた。そこで、披露されるのが、秘曲<零號琴>…。
 といったSFっぽい雰囲気の中で、その実、演じられるのは、なぜかプリキュアのような、ゴレンジャーのような…。そもそもその脚本がいったいいつ上がるのかドキドキするんだけど、脚本家は子どもの頃、大好きだったアニメを脚本に盛り込もうとするし。宇宙有数の大金持ちであるその父親は、生きてるのか死んでるのか判らないけど、陰謀を巡らしているし。アニメを思わせるような展開の中で、500年前に惑星<美縟>に起きた真実が明らかになる。
 創作世界と現実世界が、不思議な假面劇の中で入り交じり、現在と過去も入り交じるような、不思議な世界。
●「遙かなる星3 我等の星 彼等の空」佐藤大輔著、ハヤカワ文庫JA、2018年5月、ISBN978-4-15-031330-2、700円+税
2018/12/3 ★

 「遙かなる星1」「遙かなる星2」の続き。日本の宇宙開発は、さらにステップを進め、太平洋上に浮かぶアースポートの建設へ。最後には、そのアースポートへのテロが描かれる。
 このシリーズの最終巻だけど完結はしていない、著者が没したため完結はしない。このまま書き続けられたら、日本はどこまで行ったのか。ちょっと気になる。
●「遙かなる星2 この悪しき世界」佐藤大輔著、ハヤカワ文庫JA、2018年4月、ISBN978-4-15-031326-5、680円+税
2018/12/3 ★

 「遙かなる星1」の続き。第三次世界大戦後、西側諸国で偶然にも日本だけが生き残った世界で、ソ連と日本との宇宙開発をめぐってしのぎが削られる。とはいえ、一気に月面基地や火星探査を目指すソ連に対して、着々と軌道開発を進める日本。宇宙に日常を、という方針で日本全体が邁進する姿が、なんか嘘っぽいと思ってしまう。その中心には北崎重工。
 各巻の最後には悲劇が起きることになってるらしい。この巻の最後は軌道へ荷物をあげるヘヴィリフターの事故と、それを救うための悲劇。
●「遙かなる星1 パックス・アメリカーナ」佐藤大輔著、ハヤカワ文庫JA、2018年3月、ISBN978-4-15-031322-7、700円+税
2018/12/1 ★

 1962年、キューバ危機によって、世界は核戦争の瀬戸際にあった。そしてアメリカ合衆国では、ケネディ大統領が重大な決断を行おうとしていた。 一方、日本では密かに宇宙を目指す男達が活動を始めていた。そして、ドイツからアメリカ合衆国へ渡ったフォン・ブラウン、ロシアのコロリョフ。宇宙を目指す男達の系譜がたどられる。そして、この巻の最後に衝撃の展開が。
 最後の部分を除けば、海外での出来事は実際の歴史を忠実にたどっているのに対して、日本では北崎重工という宇宙を目指す男達の核となる企業が立ち上がる。ちなみに、なぜか核兵器は、反応兵器といった具合に言い換えられ、“核” という言葉は一切出てこない。
●「アンドロギュヌスの皮膚」図子慧著、河出書房新社、2013年12月、ISBN978-4-309-62224-8、1800円+税
2018/11/30 ★

 10年前のある事件の当事者である子ども達とその親たち。10年経って関係者が次々と死ぬ中、病院を経営する一族と、暴力団がらみの殺し屋・格闘家が邂逅する。基本的にはバイオハザード的なメディカル・サスペンス、そこに警察と暴力団と格闘家のエッセンスを少々。
 とても面白く読めるけど、主人公の一画の女性の行動原理が少し不明。そして、これって普通に起こりそうで、あまりSFっぽくない。
●「裏世界ピクニック3」宮澤伊織著、ハヤカワ文庫JA、2018年11月、ISBN978-4-15-031351-7、780円+税
2018/11/27 ★

 「裏世界ピクニック」「裏世界ピクニック2」に続く第3弾。今回は3編が収められている。今回主に出てくるネットロアは、「ヤマノケ」「サンヌキカノ」、そして最後は自己責任系の「地下のまる穴」「山の牧場」。今回は、奇妙な存在が出てくると言うより、奇妙な状況に出会う感じ。
●「トランスヒューマンガンマ線バースト童話集」三方行成著、早川書房、2018年11月、ISBN978-4-15-209817-7、1600円+税
2018/11/27 ★

 タイトルは正確に中身を表している。デジタル世界にアップロードされ、主義や必要などに応じて生身の“具体”にダウンロードして暮らす未来の人類トランスヒューマンが。地球とその周辺に、ガンマ線バーストがやってくるという大惨事に見舞われる前後の出来事を。童話など物語の設定をアレンジして描く。6編を収めた連作短編集。
 参照される本歌である童話(?)は、順に「シンデレラ」「竹取物語」「白雪姫」、そして「攻殻機動隊」「おむすびころりん」「アリとキリギリス」。「攻殻機動隊」と「おむすびころりん」はなんだぁなぁ〜、な感じ。
●「深海大戦 Abyssal Wars 超深海編」藤崎慎吾著、角川書店、2017年3月、ISBN978-4-04-104439-1、1900円+税
2018/11/26 ★

 「深海大戦 Abyssal Wars 漸深層編」の続きでシリーズ完結編。平凡な奴と思われた主人公が、実は地球の運命を左右する重要な存在で、敵から命を狙われまくるは、味方は命をかけて守ってくれるは、超深海に送り込まれて、宿敵と最後の戦い。あまりにも定型な展開。敵の正体も、エンディングも想定内。とまあ、とても面白いんだけど、予定調査の世界であった。
 でも、海洋開発とそれに従事する海洋民による未来像。国家を超越した世界。こうした舞台設定は、とても楽しかった。
●「深海大戦 Abyssal Wars 漸深層編」藤崎慎吾著、角川書店、2015年4月、ISBN978-4-04-102957-2、1700円+税
2018/11/22 ★

 「深海大戦 Abyssal Wars」の続き。地球には、もう一つの星からの知的生命体がすでに入り込んでいて、その者達が地球の運命を大きく左右するであろうことが明らかに。そして、数十年に一度つながる、その星との通路がまさに開かれようとして、戦いはさらに激化していく。
 このシリーズは、海中でのガンダムだったんだなぁ、2巻目でようやく気付いた。主人公はアムロを思わせるし(ニュータイプで、1機しか無い最新型のイクチオイドのパイロット。命令に従わないし、戦いを嫌がる。ダメな奴なのにもててる)。そして敵方に、特別なイクチオイドに乗った圧倒的に強いパイロット。
●「深海大戦 Abyssal Wars」藤崎慎吾著、角川書店、2013年8月、ISBN978-4-04-110525-2、1800円+税
2018/11/20 ★

 地球は温暖化から一転して、寒冷化しつつあり、海洋資源開発がどんどん進められつつある近未来。それに従事する者達は、シー・ノーマッド(海洋漂泊民)と呼ばれ、国家から独立して海上で暮らし、ときに海での生活に適するように人体を改造することもある。海に適応した人々は、ホモ・パイシーズ(Homo pisces)と呼ばれていた。国家から独立して経済力を持ちつつあるシー・ノーマッドたちと、国家との間の軋轢は、海に戦いを起こしつつあった。
 渥美半島沖のメタンハイドレートからメタンガスを取り出す「CR田」(カーボン・リサイクル田) での、暴噴事件に巻き込まれた主人公は、有力なシー・ノーマッド集団にひろわれ、最新型イクチオイド(海のモビルスーツみたいなの)のパイロットとして戦いにのぞむことになる。
 ポンペイ島などミクロネシアの伝説と謎の遺跡、未知のテクノロジー、困った時に助けてくれるイマジナリー・フレンド。いろいろな不思議設定と共に、物語が開幕って感じ。タイトルにはないけど、巻末を見ると「中深層編」らしい。そして、「漸深層編」に続く。
●「星界の断章V」森岡浩之著、ハヤカワ文庫JA、2014年3月、ISBN978-4-15-031153-7、620円+税
2018/11/19 ★

 7編収めた短編集。皇族、貴族、士族が、同じ事態にどう反応したかを描く「野営」は仕掛けが良かった。が、他はまあ、面白いのだけど、シリーズ登場人物のエピソードってだけ。ただ、最後の30番目の氏族の話「来遊」がとても良かった。
●「星界の断章U」森岡浩之著、ハヤカワ文庫JA、2007年3月、ISBN978-4-15-030880-3、580円+税
2018/11/19 ★

 12編収めた短編集。 「星界の紋章」前後のエピソードを集めた感じだろうか。ジントやその部下の昔話。若き日のアブリアル、エクリュアとコリュアなどが描かれる。シリーズのこぼれ話ばかりで、面白いけどそれ以上じゃない感じなんだけど、アーブが自身の歴史を失った最後の「墨守」が哀しく忘れられない。
●「星界の断章T」森岡浩之著、ハヤカワ文庫JA、2005年7月、ISBN978-4-15-030802-5、580円+税
2018/11/16 ★

 12編収めた短編集。アーヴの起源から始まって、その歴史を追いかける短編と、ジントがしばしば登場しつつアーブの不思議な文化世界を紹介する短い短編が交互に並ぶ。最後は、アーブの原罪が描かれる。
 アーブの起源を描いた創世と、アーブとの不思議な取引を描く蒐集がSFらしくて、楽しい。アーブの文化シリーズは、コミケ、白菜、メガネっ娘、萌、BL。起源である地球のとある民族の文化を色濃く反映していておかしい。
●「私は存在が空気」中田永一著、祥伝社、2015年12月、ISBN978-4-396-63484-1、1500円+税
2018/11/13 ★

 6編収めた短編集。ドラえもんな道具が出てくる1編と、不思議な二人を描いた1編、そして残る4編は、ある種の超能力者の恋愛ストーリー。ただ、ただ、道具が出てこなくても、ドラえもん感のある能力やストーリーがちらほら。
 テレポーテーション能力のある引きこもり少年の片思いの「少年ジャンパー」。テレポーテーション能力の可能性を探らず、とても可愛く使う様子が印象的。表題作は、それは“石ころ帽子”ですよね、って能力をもった少女のこれまた片思いストーリー。パイロキネシス(火を付ける能力)をもった女性が、貧乏アパートに越してきて…。めぞん一刻の逆のような設定の「ファイアスターター湯川さん」。この3作は心に残った。「サイキック人生」は、念動力を持った一族の子どもいたずらを描いてるだけ。
●「人はアンドロイドになるために」石黒浩・飯田一史著、筑摩書房、2017年3月、ISBN978-4-480-80469-3、1900円+税
2018/11/12 ★

 短編5編とそれぞれに幕間を付けた作品集。タイトル通り、アンドロイドのストーリーが並ぶ。ここでいうアンドロイドは、実在の人間をモデルにして、その考え方や行動のパターンを引き継ぐようなアンドロイド。最初は、そっくりに作るだけだったが、人間がアンドロイドに乗り移って動かせるようになり、そして、人間の精神をアンドロイドにアップロードできるようになる。と、なんとなく短編が並ぶ順に、技術的に進展していく感じ。
 「アイデンティティ、アーカイブ、アンドロイドI Wanna Be Adored」は、歌手のアンドロイドがつくられて、相棒がごねる話。アイデンティティに関する問題提起をしてるとは思えない。「遠きにありて想うものSee No Evil」は、直截な会話を避けて、大ざっぱな人型の電話のようなテレオノイドに頼ったコミュニケーションを描く。アンドロイド関係ないよね。ラインのコミュニケーションでも同じ展開ができる。「とりのこされてWish You Were Here」は次の作品と対。ってゆうか、次でのどんでん返しがあるなら、この短編の意味はなに? 「時を流すRadical Paradise」は一番面白かった。アンドロイドは、聖なるものになれるのか、人間にとっての神になれるのか。そして人間とはなにか。「人がアンドロイドになるためにYou can't catch me」、アンドロイドになったら、自分の肉体へのこだわりを忘れられるって話?
 連続講座の一環で、各短編は講師役が生徒に向けて提示したものという趣向になっている。幕間では、生徒3人が短編についての感想を言い合う。のだけど、これが驚くほどつまらない。どういうつもりなのか不思議。あやうく評価を一つ下げるところだった。
 アンドロイドの存在が、人間社会にどんな影響を与えるか。という問題提起なら、『AIの遺電子』の方がオススメ。
●「僕の光輝く世界」山本弘著、講談社、2014年4月、ISBN978-4-06-218846-3、1500円+税
2018/11/12 ★

 4編収めた連作短編集。アントン症候群になった少年が、大小さまざまな事件に出会い、驚きの真実が解き明かされるストーリーが並ぶ。必ずしも少年が謎を解くとは限らないのが面白い。
 アントン症候群になると、脳の広い範囲に損傷を受けた結果、失明したが、脳がそれを認識できない。視覚とは、最終的に脳が見せる映像なので、失明を認識していない脳は、他の感覚に基づいて周囲を“見せて”しまう。見たことのある人の顔は声を聞けば映像として見えるが、会ったことのない人の顔は、脳が勝手に補足する。うまくすると希望通りの映像が見られる。他の感覚からのヒントがなければ、顔も服装も想うがまま。すべてが万事この調子で、ちゃんと見えていれば問題ない出来事が、変に“見せて”いるから、愉快なことになっていく。
 すなわち、黄金仮面に襲われ、少女は壁に消え、姉さんが別人のように振るまい、そして殺人事件が起きる。最後はとてもまっとうにミステリー。殺人事件のトリックはありがちだけど。暗号は判らなかった…。
 一つ気になるのは、壁に消えた少女の謎を解いた人は、登場が唐突で、「…後で判明する」という伏線があったのだけど、その後登場したっけ? 他の作品に出てくるの?
●「風牙」門田充宏著、東京創元社、2018年10月、ISBN978-4-488-01829-0、2000円+税
2018/11/10 ★

 4編収めた連作短編集。という形式だけど、解説にもあるように、最初の3編が本編で、最後の1編は本編で言及されたエピソードを補足する外伝っぽい。
 人の記憶データを記録する技術ができた未来。その記憶データを他人にも理解できる形に“翻訳”して汎用化するのが、訓練を受けた共感能力者であるインタープリター。最高レベルのインタープリターである主人公が、記憶に潜って、身近な人々を救っていくのが最初の3編。最後の1編を含めた中で、主人公の過去も徐々に明らかになっていく。単に他者の記憶に潜るだけでなく、疑験空間という中で他者の記憶を経験すると設定して、汎用化というプロセスをかまして、他者の記憶や作られた記憶をアミューズメントとして提供できるというのが、楽しい。
 一方で、共感能力の高い人々が普通人と暮らす困難を強く打ち出した結果、シリアスなというか、暗い底流がずっと流れる。「七瀬」シリーズのような。そうした超能力物っぽい部分を除いても、毎編、心の中に暗いものを秘めた人が登場する。
 一番の謎は、この短編集のタイトル。どうしてこれにしたのか。最初の1編のタイトルではあるけど、その他の作品には関係ないのに。もう一つ謎は、帯にある“あなたの記憶をお預かりします”。このコピーは内容について、誤解を与えると思う。
 あと本筋とは関係ないが、個人的に心に残ったのは、作中で出てくる癌で余命2年の宣告を受けた人物。月に数日の投薬・治療以外は元気に働いていたのが、やがて日常生活が送れなくなり…。身近な者を癌で亡くしていると、それを思い出す。
●「攻殻機動隊小説アンソロジー」円城塔・三雲岳斗・朝霧カフカ・秋田禎信・冲方丁著、講談社、2017年3月、ISBN978-4-06-365018-1、1852円+税
2018/11/9 ★★

 5編収めたアンソロジー。
  円城塔が描くのは、人形つかいへの言及があるから、S.A.C.の頃の出来事だろうか。自分は何者か?と判らなくなっていく感じがとてもいい。言葉遊びになったり、無駄に難解にならず、いい加減のSFになってる印象。攻殻機動隊に関係なく、あるいはそれを越えて成立してると思う。
 三雲作品は、少佐が9課を離脱している時だから、2nd GIGの後? 少佐の模倣者。これは、そのまんま攻殻機動隊の一つのエピソードになりそう。っていうか、こんな感じのあった気がするけど、気のせいかなぁ。
 朝霧作品は、あの人とあの人が出会う。2nd GIGの前日譚。笑い男事件への言及がある。リアルなVR世界が楽しい。
 秋田の「自問自答」では、少佐が危機に陥る。
 冲方の作品は、一人の警察官が、ある擬体が絡んだ殺人事件 事件の捜査の経過を語る独白形式。
 どれも面白かったけど、攻殻機動隊の枠組みを超えた世界を作ってる感じで、円城と冲方の作品が一歩リードかなと思う。
●「ヴィジョンズ」大森望編、講談社、2016年10月、ISBN978-4-06-220294-7、1600円+税
2018/11/6 ★

 7編収めたアンソロジー。著者は宮部みゆき、飛浩隆、木城ゆきと、宮内悠介、円城塔、神林長平、長谷敏司。マンガが1編とSFが6編。もともとはマンガとSF小説をセットでという企画がポシャった結果なんだとか。そのせいだろうか。そうそうたるSF作家がそろってるが、統一的なテーマはない。
 宮部作品は、まさかのオチ。飛浩隆の『海の指』と宮内悠介の『アニマとエーファ』は、すでに他の作品集で読んでいたので、読み飛ばした…。マンガは、『海の指』の世界を描いたもの。
  円城の『リアルタイムラジオ』は、ワールドというデータ世界にすむ存在の話。16進数で20桁の名前を持ち、両親の名前を入力すると非可逆的に子どもの名前が命名関数によって決まる。そこでは最初の2体がどんな名前だったのかが問題となり…。
 神林の『あなたがわからない』は、クローン技術を用いて、生前の姿を完璧に再現し、うまくいけば短期間生き返りすらするエンバーミングの話。死んだ後にようやく実現するコミュニケーション。
 長谷の『震える犬』は、人類のさまざまな行動の機嫌を探るために、チンパンジーの能力を上げて行動や社会構造の変化を追跡観察するという長期にわたる野外実験を描く。チンパンジーを使うので、舞台はアフリカ。群れ内、群れ間で、殺し合いまでするチンパンジーの社会。その力学が、なぜか人間同士の関係にもシンクロする。
 後ろに並んでいる作品ほど印象に残った。
●「ハロー・ワールド」藤井太洋著、講談社、2018年10月、ISBN978-4-06-513308-8、1500円+税
2018/11/5 ★★

 5編収めた連作短編集。ネットを検閲する国々に対抗して、ネットの自由を求めて彷徨うプログラマーの物語。
 プログラマー達がおもしろがって作った広告ブロッカーが、思わず世界に広まり、作者はネットの自由についての決断を迫られる表題作。ドローン配達と2019年問題を絡めて、アメリカの何でも無い郊外で不思議に出会う「行き先は特異点」。「五色革命」、タイではまた革命が起き、ホテルに缶詰になったプログラマーは、また自由について考えさせられる。中国の軍門にくだったツイッターに反旗を翻して、マストドンをベースに新たなSNSを立ち上げる 「虚像の肩に乗って」。そして、「めぐみの雨が降る」では、仮想通貨に関わることになる。
●「ビッグデータ・コネクト」藤井太洋著、文春文庫、2015年4月、ISBN978-4-16-790328-2、790円+税
2018/11/5 ★

 京都府警のサイバー犯罪対策課の捜査官が、ビッグデータ絡みのあるビッグプロジェクトの中心人物の誘拐事件を追うことに。そこには、2年前に立件できなかったコンピュータウイルス事件が見え隠れする。
 購入情報やSNS、監視カメラなどなどからのビッグデータを寄せ集め、ヒューリスティックに名寄せまでして、個人情報や個人の動きをすべて監視する。というのは、SF的だけど、けっこう現実の話な感じ。
 一番現実的でドキッとしたのは、月100時間以上のサービス残業をして、土日も職場でただ働き。私財を投入して必要な機材の購入までしてしまう。そういう行動を自傷行為と(法律的には?)言うらしい。ITエンジニアにもそういうのがあるんだなぁ。
●「宇宙軍士官学校 攻勢偵察部隊3」鷹見一幸著、ハヤカワ文庫JA、2018年8月、ISBN978-4-15-031333-3、640円+税
2018/11/3 ★

 「宇宙軍士官学校  攻勢偵察部隊2」の続き。偵察ミッションから帰ったら、抗命行為で告発され、とりあえず地球で無理矢理休暇させられる主人公。その間に、いよいよアンドロメダ銀河への侵攻が始まる。が…。
 はたして抗命行為にたいする判決は? 侵攻の結果は? まあそうなるんでしょうという展開をする。
●「宇宙軍士官学校 攻勢偵察部隊2」鷹見一幸著、ハヤカワ文庫JA、2017年12月、ISBN978-4-15-031305-0、640円+税
2018/11/2 ★

 「宇宙軍士官学校  攻勢偵察部隊1」の続き。いよいよアンドロメダ銀河への偵察ミッション。揉めながらも、ミッションはそれなりに成功したものの…。
 やっと人類以外の知的生命体が姿を現す。あと粛正者の謎が少し明らかになる。これって最終的には、アンドロメダ銀河内に人類の同盟者を見出して(あるいは育成して?)、共闘するっと展開やね。
●「アンダーグラウンド・マーケット」藤井太洋著、朝日新聞出版、2015年3月、ISBN978-4-02-251243-7、1400円+税
2018/11/2 ★★

 もう一つの2018年の東京。たくさんの移民で様変わりした東京では、N円という仮想通貨による裏の経済世界が形成されていた。日本人の貧乏な若者や移民によって、回る裏の経済。そこでの不思議な秩序。そして、表の経済世界との摩擦が描かれる。
 一見、現実の東京と同じ世界に、同時に全く異なる経済システムと秩序が存在する様子がとても面白い。現在の仮想通貨は、価値が激しく変動し投機対象でしかないが、価値が安定した仮想通貨にはこのような展開の可能性があるとは面白い。virtual currencyを“仮想通貨”と翻訳するのは誤解を招く、本来は“実質的な通貨”であるというやり取りが勉強になったかも。
●「宇宙軍士官学校 攻勢偵察部隊1」鷹見一幸著、ハヤカワ文庫JA、2017年7月、ISBN978-4-15-031287-9、640円+税
2018/11/1 ★

 「宇宙軍士官学校」シリーズの第2部がスタート。粛正者に対してずっと受け身だった人類が、粛正者のいるアンドロメダ銀河への侵攻を始めることに。で、選抜メンバーが、天の川銀河とアンドロメダ銀河の間の小銀河系で、演習。
 第1部の出だしとよく似てる。もうあんまり青春はしてないけど。
●「宇宙軍士官学校 幕間」鷹見一幸著、ハヤカワ文庫JA、2017年3月、ISBN978-4-15-031250-3、700円+税
2018/10/31 ★

 「宇宙軍士官学校」シリーズの短編集。5編を収めていて、第1部で軽く触れられただけのエピソードを描いた3編と、第1部と第2部の間のエピソードを描いた2編。
 第1部での粛正者との戦いの最中、48時間の休暇を与えられ、地球の故郷に戻った時のエピソードが、「中の人」(恵一&ロボ)と「ホームメイド」(ウィル&エミリー)。地球連邦宇宙軍の最初の英雄の、最初と最後の戦いを描いた「オールド・ロケットマン」。
 恒星反応弾が撃ち込まれてから半年後、地球に生き残った生物を探す生物回収チームの活動を描いた表題作。そして、第2部の攻勢偵察部隊につながるアイデアが採用されようとしているケイローンの若き参謀を描いた「日陰者の宴」。
●「宇宙軍士官学校 前哨12」鷹見一幸著、ハヤカワ文庫JA、2016年11月、ISBN978-4-15-031250-3、700円+税
2018/10/29 ★

 「宇宙軍士官学校 前哨11」に続く。ついに強力なケイローンからの援軍が到着し、太陽系に侵攻してきた粛正者を、殲滅。と思ったら、粛正者からの最後の攻撃。約5万発の恒星反応弾が太陽を狙う。果たして、太陽系の人類は故郷地球を守れるのか? いよいよ粛正者との太陽系を守る戦いが集結。
 地球人類は精一杯頑張るのだが、打開策は頑張りに関係なく他所からもたらされる。けっこう不条理な展開。
●「星系出雲の兵站2」林穣治著、ハヤカワ文庫JA、2018年10月、ISBN978-4-15-031342-5、860円+税
2018/10/29 ★

 五星系文明に密かに侵入した謎の異星人から、占拠された準惑星をなんとか取り返した「星系出雲の兵站」の続き。あっさり再び準惑星を占拠され、再度取り返すための作戦が進められる。
 という背景では、出雲星系と壱岐星系との確執。それぞれの星系内での勢力争いに政治的駆け引きが展開。その中で、タイトル通り、兵站の問題がクローズアップされ、丁寧に描かれる。
 とはいえ、SF的には謎の異星人の正体が、謎のままで少しずつその性質が明らかにされていくのが面白い。人類の予想を裏切る異星人の動きには、どんなロジックが隠されているのか。このミステリが明らかになった時点で、完結だろうか。
●「天空の約束」川端裕人著、集英社、2015年9月、ISBN978-4-08-771580-4、1300円+税
2018/10/22 ★

 「雲の王」と同じ雲の一族の話第二弾。ただしストーリーに「雲の王」とのつながりはあまりない。同じ登場人物が何人か見え隠れするが、名前は出てこない。戦時中の長崎での先生と生徒たちのエピソードを軸に、前後に微気候の魔術師と、眠り姫&雲の芸術家のエピソードが交互に繰り返される。
 戦時中のエピソードが怖く、哀しい。その時の思い出が、数十年後に回り巡る。
●「探偵AIのリアル・ディープラーニング」早坂吝著、新潮文庫、2018年6月、ISBN978-4-10-180124-7、630円+税
2018/10/19 ★

 AI研究者が、自身のAIを育てるために、アルファ碁のようにディープラーニングを用いる。刑事役と犯人役で対決を繰り返す感じ。ところが、そのAI研究者が殺され、犯人AIが持ち去られる。研究者の息子と刑事AIが、犯人捜し、そして探偵業を開始。謎解きを軸に、犯人AIを持ち去った犯罪集団との対決が描かれる。
 各章のタイトルに、フレーム問題、シンボルグラウンディング問題、不気味の谷、中国語の部屋。とAI研究でよく出てくる話題をちりばめ、ストーリーにもしっかり組み込まれている。でも、謎解き自体がさほど驚きがないような。
●「雲の王」川端裕人著、集英社、2012年7月、ISBN978-4-08-771455-5、1500円+税
2018/10/18 ★

 空の流れを見たり、温度分布を感じたりする能力を持つ雲の一族。いわばその一族のお姫様が、自覚無く気象庁に勤めていたりするのだけど、一族の者に振り回されて、ゲリラ豪雨や台風と対決する。雲の王とは、台風ことやね。
 一族には長い歴史があって、しばしば日本の歴史にも関わってきてるっぽい。政治か役所の上層部にもつながりが?てな事は匂わされるが、とくに明らかにならずに終わる。地球の環境改変につながる大きな話に展開できそうなのに、地に足が付いたまま、身近に終わる感じ。それが著者の基本スタンスっぽい気もする。好きだけど、物足りなくもあるかも。
 物わかり悪く、周りに振り回されているだけの主人公には、あまりなじめなかった。子どもがいてくれてよかった。ってゆうか、子ども主人公でよかったと思うけど。
●「ウルトラマンデュアル2」三島浩司著、ハヤカワ文庫JA、2018年9月、ISBN978-4-15-031347-0、1260円+税
2018/10/16 ★

 「ウルトラマンデュアル」の続編。光の国の助けを受けて、侵略者を退けた地球(ってゆうか日本?)。それから数年後、新たな侵略者から地球を守るためウルトラマンを増やす計画が進むも、さっぱり新たなウルトラマンは現れず。地味にいろんな宇宙人がやってきて、ポツポツと怪獣が現れる。そんな中、堕落した翼というなぞの存在も現れ、先の侵略時点から地球に残る宇宙人たちを巻き込んで、地球人に新たな運命が…。
 てな話なんだけど、「ウルトラマンデュアル」の時、子どもだった若者たちが集まってきて、地球を担っていく。でもまあ、結局はラブストーリーのような。
●「宇宙軍士官学校 前哨11」鷹見一幸著、ハヤカワ文庫JA、2016年7月、ISBN978-4-15-031236-7、600円+税
2018/10/14 ★

 「宇宙軍士官学校 前哨10」に続く。粛正者に対する太陽系攻防戦がさらに続く。ケイローンからの援軍が少ししか来ず、敵が次々と新兵器を投入してくる中、かろうじて防衛できているものの、太陽系防衛軍側の犠牲者が激増。一方、地球では、太陽風から地球を守る新たな策が動いている。
●「宇宙軍士官学校 前哨10」鷹見一幸著、ハヤカワ文庫JA、2016年3月、ISBN978-4-15-031221-3、600円+税
2018/10/13 ★

 「宇宙軍士官学校 前哨9」に続く。粛正者に対する太陽系攻防戦が続く。ケイローンからの援軍が来るまでなんとか持ちこたえようと頑張る。が、そのケイローンにも粛正者の攻撃が始まり、援軍の目処が立たなくなる…。一方、地球からは最初のコロニーが脱出。
●「5まで数える」松崎有理著、筑摩書房、2017年6月、ISBN978-4-480-80470-9、1600円+税
2018/10/12 ★

 6編を収めた短編集。6編といっても最後の「超耐水性日焼け止め開発の顛末」は5ページのショートショート。短いけど、これが一番面白かったかも。なんせ後味がいいし。
 疑似科学バスターズの2編は、バスターズができるきっかけと、終わる様子を描いている。でも「バスターズ・ライジング」は(疑似)科学を描いているけどSFじゃないような。「やつはアル・クシガイだ」は、SFと呼べるけど、身も蓋もない終わり方だなぁ。
  身も蓋もないと言えば、「たとえわれ命死すとも」。動物実験が完全に禁止されて、違反したら極刑という極端な世界。それでいて、ヒト細胞の培養も、どうもコンピュータシミュレーションもできないらしい。というわけで、臨床医とは、自らの体で生体実験をする世界が描かれる。むしろ優秀な医者が、貧民を使って生体実験的な階級社会な展開にしなかったのは、画期的。でも、哀しすぎて読み返しは無理。
 表題作の「5まで数える」の英題は「I can't count five」。なぜ変えてるんだろう? 数学は科学ではないし、幽霊は出てくるし、この症例を除けばscienntificとは言えないような。面白いけど。
 「砂漠」は、実はミステリ仕立てなファンタジーやんね。
●「重力アルケミック」柞刈湯葉著、星海社、2017年2月、ISBN978-4-06-139959-4、1300円+税
2018/10/11 ★★

 物が燃えるのは燃素のせいで、重量があるのは重素のおかげ。19世紀半ばに重素を化学処理することで、反重力を生み出せることが見出され、反重盤を使った航空機が発明された。重素が工業利用されるようになり、どんどん石から重素が採掘される中、1940年代に地球が膨張していることが明らかになる。それでも重素の採掘は止まらず、いまや郡山市から東京まで飛行機で7時間。東京都杉並区の空港から横浜空港まで、時速600kmでる航空機で1時間。東京からサンフランシスコまで航空機で10日間かかる。とりあえず地球の表面積は30倍ほどになった計算だろうか。そして膨張は日々続いているので、“今日の距離は…”という変わった会話が行われる。
 そして福島県郡山市に生まれ育った主人公は、東京の大学へ進学。重素工学というはやらない学科で、ダラダラとした学生生活を送っていた主人公は、ひょんなことから、反重盤を使わない航空機を自作することになる。
 似て非なる地球。膨張した地球では、電波でのコミュニケーションはできるが、遠くへ出かけるのはとても大変。時間とお金がかかりすぎるので、海外は実在の怪しい遠い世界で、むしろ宇宙の方が近いくらい。国内旅行すらろくに行われない。そんな世界では反重盤を使わない航空機は想像もされず、アイデアはみんなに一笑に付される。とにかく、不思議な世界が面白い。
 ただ、面白い世界なだけに気になる点も多い。膨張してるから、どんどん新たな土地が生まれてくる、ってのはいいとして、そこがどんな場所になるのかが曖昧。都市と都市の間は、荒野が広がっているような描写のようだが、日本の気候だとすぐに林になりそうなもん。そこにはどんな生態系が成立しているのか。拡がらない都市の中と、都市と都市の関係は言及されるが、都市以外の環境や自然の描かれ方が不充分に思えて仕方が無かった。
●「宇宙軍士官学校 前哨9」鷹見一幸著、ハヤカワ文庫JA、2015年7月、ISBN978-4-15-031199-5、600円+税
2018/10/11 ★

 「宇宙軍士官学校 前哨8」に続く。いよいよ太陽系に粛正者が侵攻。いつもと違ったパターンで来てくれるおかげで、なんとか持ちこたえる地球連邦軍、というか地球軍独立艦隊、というか途上種族連合艦隊。一方、地球では粛正者に敗れた時の地球脱出と地下シェルターの準備が進みつつある。
  閉鎖生態系の管理者とそのスタッフのやりとりが、楽しい。「宇宙軍士官学校 前哨8」辺りから古いアニメネタが増えてきたけど、この巻では宇宙戦艦ヤマトからファーストガンダムまで、判りやすく盛りだくさん。
●「おそれミミズク」オキシタケヒコ著、講談社タイガ、2017年2月、ISBN978-4-06-294060-3、720円+税
2018/10/9 ★

 とある田舎の小さな街に住む主人公は、就職もせずに新聞配達を手伝いつつ、毎週秘密の友達のところへ通う。秘密の友達は座敷牢で暮らし、怖い話を求める。恐がりのくせに主人公は、怖い雑誌を購入しては、怖い話を仕入れて、その話をしに通うこと、10年。その街に、怖い雑誌の副編集長が来て、主人公の運命は大きく変わっていく。いろんな意味で、怖いを扱った話。すなわちホラーってことかと。
 この人間世界に重なって存在する世界、そこに住まう情報生命体たち。情報生命体と人間とのコンタクトって意味では、間違いなくSF。
●「宇宙軍士官学校 前哨8」鷹見一幸著、ハヤカワ文庫JA、2015年7月、ISBN978-4-15-031199-5、600円+税
2018/10/8 ★

 「宇宙軍士官学校 前哨7」に続く。モルダー星系を粛正者から守る戦いの続き。撤退戦でのゲート防衛で頑張る。
 また出世した。
●「地獄で見る夢」森岡浩之著、徳間文庫、2015年9月、ISBN978-4-19-894001-0、650円+税
2018/10/7 ★

 「優しい煉獄」シリーズで、今のところ唯一の長編。時間線は「優しい煉獄」の続きになっている。死んだ人達が暮らす、昭和60年のタイガース世界は、犯罪が可能になって、暴力的な展開が人達が集まるようになってしまったのだけど、さらに殺人までが可能な世界が登場。そこでの殺し合いゲームに関わった人達を救う(?)べく探偵が活躍。
 現実世界が失われると存続できないヴァーチャル世界だと、あまり充実して、みんながヴァーチャル世界にばかり殺到するとまずい。ってのは確かにありそう。
●「宇宙軍士官学校 前哨7」鷹見一幸著、ハヤカワ文庫JA、2015年3月、ISBN978-4-15-031188-9、600円+税
2018/10/7 ★

 「宇宙軍士官学校 前哨6」に続く。他の星系の人類と共にいわば外人部隊の一員となって、ケイローンの部隊と共に、モルダー星系を粛正者から守りに行く。一方、地球でも粛正者に対する防衛の準備が進む。
 辺境の小さな部隊を率いていたのが、出世していく話になっていくのかも。となると、地球のことはどうなるのかって感じに。でも、地球でも優秀な人材が出てきつつあるからいいのか。
●「優しい煉獄」森岡浩之著、徳間文庫、2015年6月、ISBN978-4-19-893984-7、900円+税
2018/10/5 ★★

 トクマノベルズ版の「優しい煉獄」のが徳間デュアル文庫に入る際に1編付け加えられ、さらにトクマノベルズEdgeの「騒がしい死者の街 優しい煉獄2」に収められたものも合わせて、10編を収めた優しい煉獄シリーズ短編の決定版。
 「優しい煉獄」(同じタイトルでややこしい…)の書いたことがさらに進んでく感じ。昭和60年の大阪をモデルにした死者がすまうヴァーチャル世界。だんだんリアルになっていき、コーヒーは冷めるようになり、とうとう暴力や犯罪までもが解禁される。それを機に、プロ野球ファン(というか阪神ファン)にとっての楽園だったのが、暴力を志向する人達が集まる場に。そして探偵の仕事が増えていく。
 企業が運営するヴァーチャル世界では、金の切れ目が存在の終わり。罰金はそのまま命を削ることに直結する。脳天気なようで、とてもシビアな世界。ちょっととぼけた探偵が直面する事件は、世界を左右しかねない問題を抱えていたり、ヴァーチャル世界と現実世界の不思議な関係を明らかにしていたり。少し変わったミステリを楽しめる。
●「宇宙軍士官学校 前哨6」鷹見一幸著、ハヤカワ文庫JA、2014年11月、ISBN978-4-15-031174-2、600円+税
2018/10/4 ★

 「宇宙軍士官学校 前哨5」に続く。ケイローンに援軍を要請に行く。到着してみると…。
 まあゆうたら、ヤマトがイスカンダルに到着したら、ほかにも多数のヤマトがやってきていて、誰を優先的に助けるか競わされるという展開。 宇宙戦艦ヤマトからの、かぐや姫のような展開。
●「美森まんじやしろのサオリさん」小川一水著、光文社、2015年6月、ISBN978-4-334-91030-3、1500円+税
2018/10/3 ★

 G県の美森町は、限界集落ぎりぎりの山里。そこで、20歳そこそこの男女が、町立探偵として活躍する5編を収めた連作短編集。
 扱うのは、美森卍社の神さまのお使いが起こしたようでいて、人間が起こしたちょっとした事件。1作目は探偵小説っぽく事件を解決する。2作目は謎を解く、というよりはあまり謎でもないので、案件を処理するに近い。3作目はトリックを明らかにしたので探偵っぽいかも。4作目は、探偵以外が実は謎を解いていた感じ。最後は、全員集合で町おこし。
 獣害対策のサムソンワイヤーが面白い。他にも、お掃除ロボットに、食事配送システムとハイテクが登場する。一方で、伏見さん、庵り童子、水陸さん、小野鈿女、武者烟といった美森さんのお使いの登場するようなしないような。ある意味、本当に登場した武者烟みたいに、他のお使いももっと活躍すればよかったのに。
●「就職相談員蛇足軒の生活と意見」松崎有理著、角川書店、2014年5月、ISBN978-4-04-101835-4、1600円+税
2018/10/2 ★

 分類学で博士号をとった主人公は、研究職に就けず、職安に就職口を探しにいく。でも超寡黙で、やはり研究職につきたいなと考えている主人公に就職口は見つからず。ふと目にした貼り紙をきっかけに、嘘道家元の秘書のアルバイトを始める。嘘道家元は、なぜか職安の特命相談員で、そこには入れ替わり立ち替わり妙な人や人でない特殊求職者がやってきて、縦横無尽に解決していく。たぶんそんな感じの話。
 舞台は、とても仙台っぽい街で、やたらと仙台の美味しいお菓子がでてくる。そして丸い物ならなんでも食べる巨大ランチュウ。途中から出てくる、めっちゃ喋って、人生に悩んでるAI掃除機。味音痴の植木職人。嘘道家元の座をかけて押しかけてくるネコ好きの人。なにより家元が変人。変人だらけによる変な話。というのが正確なところ。
 職安の正式名称は、職業安全保障部局。物語は荒唐無稽感がただよいまくる中で、背景となる社会情勢が、妙に真面目に設定されていてSF的。 SFとしてはそこが読みどころ。というか、そこ以外はファンタジーであり、人情話。
●「星界の戦旗VI 帝国の雷鳴」森岡浩之著、ハヤカワ文庫JA、2018年9月、ISBN978-4-15-031341-8、660円+税
2018/10/2 ☆

 帝都ラクファカールが「四ヶ国連合」に攻められてから10年。2つに分かれた「アーヴによる人類帝国」が、いよいよ反撃に転じる。
 5年半の沈黙を破り、「星界の戦旗」第二部がスタート。割とあっさり反撃が進んでいくので、あと2冊くらいで完結するのかも。
●「星界の戦旗V 宿命の調べ」森岡浩之著、ハヤカワ文庫JA、2013年3月、ISBN978-4-15-031106-3、660円+税
2018/10/1 ☆

 「アーヴによる人類帝国」と、「三ヶ国連合」改め「四ヶ国連合」との戦争が、いよいよ一旦集結。帝都ラクファカールに「四ヶ国連合」が攻め込み、アーヴたちは多くの犠牲を出しながら、かろうじて脱出して、遷都を行う。
 というわけで、「星界の戦旗」第一部完結。
●「くちなし」彩瀬まる著、文藝春秋、2017年10月、ISBN978-4-16-390739-0、1400円+税
2018/10/1 ★★

 恋愛、夫婦、時に不倫。男女の関係を中心にした7編を収めた短編集。現代日本の日常風景から始まる、かのようでいて、7編の内、4編では驚きの世界が描かれる。体がパーツが外れたり、体に花が咲いたり、男女の活動時間が昼と夜に分かれていたり、女性が卵を産んだり。当たり前のように描かれるので、すごく不思議な雰囲気が漂う。
 人が寄生虫にコントロールされる話、男女それぞれが不思議なカーストめいた分化をとげている話。この2編がSF度が高く、とても面白い。でも、なぜか一番心に残ってるのは、スカートを作る不思議な三角関係の話。
●「宇宙軍士官学校 前哨5」鷹見一幸著、ハヤカワ文庫JA、2014年6月、ISBN978-4-15-031161-2、600円+税
2018/10/1 ★

 「宇宙軍士官学校 前哨4」に続く。いよいよ太陽系に敵である粛正者の探査機が到来。士官学校の士官と練習生にも出撃命令が下る。
 後半は、銀河文明評議会のケイローンに援軍を要請に出立。地球が敵によって滅亡の危機に、人類は自力で対応できないから、異星に助けを求めに行く。出発シーンや最初のワープのところは、どうしても頭の中に「宇宙戦艦ヤマト」のテーマが流れる。ワープシーンで、服が透けることはなかったけど…。
 あと、このシリーズは、先進種族が後進種族をリフトアップして、その奉仕を受けたりする習慣が描かれる。知性化戦争シリーズみたいで、奴隷制度みたいで気持ち悪い。と思ってたけど、この巻ではリフトアップと奴隷制度との類似点を作中で指摘している。著者はのり突っ込みみたいなのが好きなのかも。
●「超・博物誌」山田正紀著、集英社文庫、2000年9月、ISBN4-08-747240-X、533円+税
2018/10/1 ★

 宇宙をも生活環に組み込んだ“虫”に関する6編を収めた短編集。地球から遠く離れたとある惑星に住むアマチュア昆虫研究者の視点で描かれる。
 1編につき2種ほどの不思議な生物が登場する。核融合をする火の花と、卵で宇宙を旅するプラズマイマイ(カタツムリではなく蛾)。体内に恒星を持つ滅びの星(蛍やね)と、霊子を操る糸をつむぐファントムーン(巨大クモ) 。レールに適応して高速で宇宙に巣立とうとするRUN(カブトムシ?)と泡の卵嚢で宇宙を旅するカタパルトリッパー。海の底から(たぶん)宇宙に旅立つシエロス(貝だそうな)。地下3kmで育つイカロスと、宇宙船を操るメロディアスペース。砂を排出する珪素生物砂生み、冷凍睡眠を助けてくれる涅槃虫、そしてタナトスカラベ。
 不思議な生きものが出てくれば楽しいかと思ったのだけど、突っ込みどころにばかり気が行って、あまり楽しめなかった。
●「地球環」堀晃著、ハルキ文庫、2000年10月、ISBN4-89456-781-4、820円+税
2018/9/30 ★

 情報省の生体端末とでもいうべき情報サイボーグが登場する12編を収めた短編集。過去に3冊の短編集に収められていた作品から、情報サイボーグものを抜き出した一冊らしい。
 とはいうものの、最初の「恐怖省」だけは地球上の話で、情報サイボーグと情報省が対立する。2つ目の「地球環」 は地球の軌道上の話。3つ目の「最後の接触」は、人が宇宙船の部品となる話で、情報サイボーグは出てこない。その他は、情報省のネットワークは太陽系を広く覆い、銀河系にも拡がる勢い。最初の情報省と情報サイボーグとの対立はなくなり、自分のミッションをクリアして、リタイアを目指す情報サイボーグが、同行者からの視点で描かれることが多くなる。
 2作を除いて1970年から1981年に書かれたもの。そんなに昔に書かれた割りには、(もちろん色んな面で古くさいのは間違いないけど)それほど古びていないのには驚く。
●「宇宙軍士官学校 前哨4」鷹見一幸著、ハヤカワ文庫JA、2013年11月、ISBN978-4-15-031137-7、600円+税
2018/9/27 ★

 「宇宙軍士官学校 前哨3」に続く。最初の40人が、それぞれ20人の練習生を任されて、教官として訓練開始。「宇宙軍士官学校 前哨1」から「宇宙軍士官学校 前哨3」が繰り返されるのかと思いきや、そのスケジュールは急ピッチで、さらに前倒し気味。
 人類にせまる危機が具体的に描かれると同時に、地球や太陽系外縁では、危機に備える動きが。そんな中ついに…。
 長年続けられてきた、人類の連合と、謎の敵の戦い。これもどこかで読んだようなイメージ。でも、それを日本人が描くのは珍しい気がする。少なくとも小説では。アニメではあるような…。
●「宇宙軍士官学校 前哨3」鷹見一幸著、ハヤカワ文庫JA、2013年4月、ISBN978-4-15-031108-7、600円+税
2018/9/26 ★

 「宇宙軍士官学校 前哨2」に続く。最初の40人は、単艦演習を終えて、太陽系外縁での艦隊戦の演習に。そして、いよいよ教官として、練習生を受け入れる。
 と、その前に、教導者たちの不幸な歴史、銀河で長年繰り返されてきた戦い、そして人類に迫る危機が明らかになってくる。
  仮想と現実の違いがますます分かりにくくなり、相変わらず『エンダーのゲーム』のイメージがちらつく。
●「宇宙軍士官学校 前哨2」鷹見一幸著、ハヤカワ文庫JA、2012年11月、ISBN978-4-15-031088-2、600円+税
2018/9/25 ★

 「宇宙軍士官学校 前哨1」に続く。最初の選抜をクリアした面々で、今度は実際に(?)練習戦艦に乗り込んでの実践形式の演習。本当に死ぬ(?)という驚きの演習が2回行われる。次から次への投入される罠を、無事にクリアできるか?!ホッとしたと思ったら、新たな危機が、とまるでホラーのような展開。死ぬほどの失敗の展開を再確認して、もう一度挑戦できるというのは、効果的な演習だとは思うけど、精神的ダメージは大きそう。
  今回は青春物の戦争SFっぽい感じに。ここに来て、至高者に敵対者がいることがあきらかになる。
 なんと「宇宙軍士官学校 前哨1」を読んだ時に、『幼年期の終わり』 や『エンダーのゲーム』も思い出すやないか。と書いたら、この巻で登場人物が、この2作品などを引き合いに出して、状況が似てると話す場面が〜。ノリ突っ込み? 章のタイトルにいくつかSF作品名が登場するのはどうしてだろう。
●「ディプロトドンティア・マクロプス」我孫子武丸著、講談社文庫、2018年7月、ISBN978-4-488-73411-4、660円+税
2018/9/25 ★

 京都大学周辺、鴨川、御所、京都駅前と京都市の中心部を舞台に、探偵が大活躍、怪物が大暴れする。半分くらいまでは、ぜんぜんSF色のない探偵物語。貧乏な探偵が行方不明の大学教授とカンガルーを探す話なんだけど、後半は驚きの急展開。とても楽しく読んだけど、これってミステリなのかな?
 今回の文庫化が2018年だけど、最初に単行本が出たのは1997年。タイトルは、Diprotodontia・Macropus。前半はカンガルーやクスクス、ウォンバット+コアラを含む目の学名、後半は中大型のカンガルーを含む属の学名。日本語にするなら「カンガルー」ってタイトルってことになる。どうせなら「マクロプス・ルーファス」にすればよかったのに。あるいは勝手に「マクロプス・ギガンテス」とか。
●「プロジェクト・シャーロック」大森望・日下三蔵編、創元SF文庫、2018年6月、ISBN978-4-488-73411-4、1300円+税
2018/9/25 ★

 2017年の年間SF傑作選。編者に選ばれた2017年のベスト短編16編が並ぶ。その中の1編はマンガだったりする。そして、第9回創元SF短編賞の受賞作も掲載。その選評も載ってるし、2017年の日本SF界概況も載っていて、むしろそれを楽しみにしているきらいがある。そう言えば、各短編の前には、その作品や著者の簡単な紹介があって、それを読んで読み逃している作品に気付いて購入するってパターンも多い。
 今回のセレクションは、眉村卓や筒井康隆といった大御所から、横田順彌や新井素子といったベテラン。今が旬な感じの上田早夕里、円城塔、小川哲、宮内悠介まで。普通はSF作家のイメージがあまりない我孫子武丸や彩瀬まるまで多彩。普段読む機会のない作家の作品に出会える機会という意味でも貴重。
 「Shadow.net」を読んで「攻殻機動隊小説アンソロジー」を、「山の同窓会」を読んで「くちなし」をと、収録されている短編集を買った。「プロジェクト・シャーロック」を読んで、同じ作者のSFテイストがあるという「ディプロトドンティア・マクロプス」 を買ってしまった。「ディレイ・エフェクト」が表題作になってる短編集はもう持ってる。ってことで、この辺りが面白かった。
●「導きの星IV 出会いの銀河」小川一水著、ハルキ文庫、2003年11月、ISBN4-7584-3079-9、920円+税
2018/9/21 ★

 天の川銀河の一画直径一千光年の範囲に進出した人類は、そのエリア内の地球外知性を育成すると称して、外文明監察官を派遣して文明を見守ってきた。主人公は、外文明監察官として惑星オセアノに派遣されたが、見守るという原則を破り、厳重種族スワリスの文明に干渉し始める。人工冬眠を繰り返しつつ、何世代にもわたってのスワリスへの干渉の結果、人類の運命は?
 というわけで、人類、人類が創り出したAIである目的人格、スワリス、そして目的人格達が人類に対抗するために育成したルシフェリン星のセントール。四つ巴のやり取りを、密かに干渉してきたOTI。どんどん登場人物が増えてきた中、物語は大団円を迎える。
 奴隷制度を肯定的に描いているとしか思えなくて、とても気分の悪いディビッド・ブリンの知性化シリーズを思わせる設定。なんかイヤな話と思っていたが、それがそうすんなりは行かなくて、入れ子構造になってみたり、皮肉な展開をし始めてからは面白く読めた。ただ、最後の急展開とネタ明かしは、ちょっと薄くて唐突な感じがしてしまった。
●「プロローグ」円城塔著、文春文庫、2018年2月、ISBN978-4-16-791019-8、890円+税
2018/9/18 ★

 「エピローグ」と対をなす「私小説」らしい。どう対をなすのかは、よーく考えないと判らないので、放置。
 私が中心だから私小説なんだろうけど、実態は登場人物が小説世界を悩みながら構築する話ってところだろうか。そこでは記述や認識や小説世界構築のさまざまなテーマが入れかわり立ち替わり登場する。

 主人公である“わたし”は、著者である“わたし”の小説の登場人物。だけど、名前はまだない。ってゆうか、著者の名前もまだないので、主人公がつけてあげる。自分は何語で記述されてるんだろう?から始まって、主人公の悩みは尽きない。
  なんで日本語なんで文字の種類のやたら多い言語で記述するかなぁ。ひらがな、カタカナ、アルファベットや数字も混じるし、その上、やたらと種類の多い漢字。ってことで、各章で登場した漢字の一覧が章末に付いていたりする。「わたしはこうして、ゆっくりとではあるが成長していく」
 人名を生成させ、地名を生成させ、動物に名前をつけ。と、世界は自動的にドンドン成長していく。その小説に割り込んで、方向性を変えようと画策する登場人物。もはや何が何やらわからない小説世界。

 ジャストローのウサギアヒル。21の勅撰和歌集の名前のグラフ的関係、強引に文節に分けての類似関係。紙の書籍と電子書籍の物理特性の違い。変更履歴の保存。日本語の文字種や単語の登場頻度統計。変化を続ける運動としてのソフトウェア。などなど色んなテーマについての考察とアイデアが挟み込まれていて、それ自体がけっこう面白い。とくにお気に入りは、学会と学界のくだり。

●「星系出雲の兵站」林穣治著、ハヤカワ文庫JA、2018年8月、ISBN978-4-15-031340-1、840円+税
2018/9/15 ★

 地球を旅だった人類は、ある宙域に5つの居住可能惑星からなる五星系文明を形成。地球とのコンタクトは失われたが、地球文明を引き継いでいた。その辺境の壱岐星系で、異星文明の衛星が発見された。どうやら異星人は密かに人類の情報を収集していたらしい。
 五星系文明の中心である出雲星系と、壱岐星系との政治的・軍事的確執を伴いつつ、謎の異星文明とのコンタクト、戦闘が描かれていく。というか、異星文明とのやり取りよりも、出雲星系と壱岐星系との確執に大部分のページが割かれる。というか、双方の人物が丁寧に描かれていく。上層部同士の確執の中、現場の部隊が頑張って事態を打開していく。というミリタリーSFにありがちな展開ももちろん用意されている。
●「宇宙軍士官学校 前哨1」鷹見一幸著、ハヤカワ文庫JA、2012年7月、ISBN978-4-15-031073-8、600円+税
2018/9/13 ★

 21世紀初頭、地球に異星の客が到来した。それによって、宇宙には地球文明をはるかにしのぐ文明が多数あり、銀河文明を形成していることが判明。来訪者が無償で提供する高度なテクノロジーと共に、人類は嫌が応にも変化が迫られる。そして、統合化戦争ののち地球連邦、そして宇宙軍を設立された。
 治安維持軍にいた主人公は、来訪者が設立した宇宙軍士官学校に抜擢される。設定はさておき、ストーリーは絵に描いたような学校を舞台にした青春物。新たな仲間、ライバルとの確執、戦いと成長、そして恋愛。とてもバランス良く配置されている。長く続くシリーズだが、この1巻で充分完結している感じ。
 とても面白く読めるのだけど、不思議なほどオリジナリティを感じさせない。銀河文明と接触して、人類が新たなステージに進まされることになる。というのは『幼年期の終わり』 以来の伝統の展開。文明の供与の代わりに、兵士を出さされるというのは『ヤキトリ』みたい。なんだけど、これは『ヤキトリ』の方が後か。『エンダーのゲーム』も思い出してしまったのだけど、もしかしてそんな展開もあったりするのかなぁ。
●「罪火大戦ジャン・ゴーレI」田中啓文著、早川書房、2011年4月、ISBN978-4-15-209207-6、2000円+税
2018/9/13 ☆

 西暦2192年、世界中で600億人もの死者が蘇り始めた。なんと地球に生まれたすべての死者が蘇ってしまったらしい。突然の超人口過密状態と食料不足の対策として、一人の体の中に複数人が宿るという訳の分からない方法。
 お金のない者は自由行動は許されず、牢獄のように出入り口のない部屋で、ネットを見ながら暮らすことを求められる。そこから逃げ出した主人公は、追われるまま軍隊に逃げ込み、短い訓練の後、送り込まれた兵隊をすべて死ぬという過酷な星に送り込まれる。
 各章のタイトルは、有名なSF作品のタイトルだし、随所にSFネタも盛り込まれる。それは楽しいのだけど、それ以上に最初から最後までひたすら人が死にまくって、エログロ、スカトロ。そしてストーリーは、なんというか適当感満載。
 死者が全部蘇ってしまうとか。一人の中に複数の人格を住まわせるとか。出入り口のないウサギ小屋とか。面白い設定はいっぱいあるのだけど、当然ながら設定しただけに終わる。
●「ヴコドラク」岡田剛著、早川書房、2009年7月、ISBN978-4-15-209055-3、1700円+税
2018/9/10 ★

 台湾と中国大陸の真ん中につくられた新台湾を舞台に、吸血鬼と人狼、呪術師と魔女が、長年にわたる因縁の決着をつけるべく戦う。
 永遠の命を持つ者、転生を重ねた超能力者同士が、現代で戦うようなイメージ。そういう意味でSF的テイストは少ないが、新台湾に象徴される世界情勢は、けっこう面白い。
  麻薬中毒者多数で、死者多数。性描写と暴力描写がとても多くて、濃密な世界をつくりだしているけど、正直苦手。
●「血液魚雷」町井登志夫著、早川書房、2005年9月、ISBN978-4-15-208672-6、1500円+税
2018/9/6 ★

 病院で若い心筋梗塞患者の動脈中に見つかった謎の存在。生物なのか? その正体をさぐるべく、動脈の中に探索の旅にでる。となると『ミクロの決死圏』だけど、最新の『ミクロの決死圏』は、人間は小さくならず、カテーテルの先端に付いたカメラでもってVR的に動脈に旅立つ。その最新鋭カテーテルの名前が「アシモフ」。
 主人公は、放射線科の医師。やがて、謎の存在の衝撃に事実が明らかになる。でもまあ、そんなに突拍子もないことにはならない。面白いけど、『ミクロの決死圏』の奇想天外さには届かないような。
●「地底大陸」蘭郁二郎著、河出書房新社、2018年8月、ISBN978-4-309-02724-1、1650円+税
2018/9/5 ☆

 1939年に興亜書房から出版されたのが最初。1971年に桃源社から復刊され、これが二度目の復刊。初期SFの金字塔、と帯にはあるが、はっきりいって、今読むとファンタジーにしか読めない。そして、すっごいご都合主義的な展開に、頭が痛くなる。
 博士が率いる大陸探検隊に、助手として同行する帝国日本男児たる少年。少年や博士は、R国の手先である敵と共に、地下の空洞に拡がる世界へ。地底には南アメリカからモンゴルにまで拡がる空洞があり、そこにインカの末裔が統べる地底国が存在していた。地底国には、人造人間、空気鉄道、引力遮蔽機、超光線透視機などなど、さまざまな高度な科学技術があった。その秘密がすべて書かれた「金色の手帳」を敵に奪われ、それを奪還すべく、帝国少年が大活躍。
 書かれた時代が時代なので、帝国日本が、満州国を支配してたりして、R国と緊張状態にあったりする。今となっては、そういう大時代的な部分を楽しむ小説なんだろう。
●「ランドスケープと夏の定理」高島雄哉著、東京創元社、2018年8月、ISBN978-4-488-01828-3、1900円+税
2018/9/5 ★★

 姉は、22歳で教授になるほどの若くして世界最高の宇宙物理学者。おかげで何故かかなり好き勝手が許されていて、優秀な助手とともにL2にある基地の一角で、密かに物理学を根底から揺るがす研究を進めている。記憶情報の転送と、量子ゼノン効果によって、意識体だけでの宇宙探査の可能性を目指す姉。その失敗で僕の人格は2つに分離して、なぜか妹ができてみたり。弟である僕は、姉に振り回されながら、宇宙と知性に関する定理を順に発見していく。そんな3編を収めた連作中編集。
 いきなり僕は姉に呼ばれて宇宙へ。僕が発見した知性の第一定理は、「すべての異なる知性の会話を瀬利率させる完全辞書が存在することを示した」。その紹介の間に、姉は中に異なる宇宙を内包したドメインボールを見つけてきて、意識体を投入して探査を試みる。そしてたくさんの姉、超スーパーコンピュータ。
 そして僕は、アイスランドの大学で、あらゆる理論の将来的な発展を見通してしまう、知性の第二定理「理論の籠」を発見。そして生まれたエネルギーの非保存空間。
 最後に僕は、 「理論の籠」 を狙う者達に追われる中で、「理論の籠」の翻訳定理である第三定理を見いだす。
 新たな大胆理論が目白押しで楽しいのだけど、「理論の籠」はあまりに万能、お姉さんもあまりに無謬でちょっと微妙。
●「オブジェクタム」高山羽根子著、朝日新聞出版、2018年8月、ISBN978-4-02-251564-3、1300円+税
2018/9/3 ★

 中編の表題作と、短編を2編収めた中短編集。
 謎の壁新聞を密かに発行する祖父と、家族にも内緒で、それに協力して調査を行う小学生の孫。秘密基地での発行作業、位置がばれないように秘密基地への不思議な道順。昔、町にやってきた移動遊園地。日の光で現れるゾウさん。ワクワクが一杯の前半と、ブラッドベリ風の後半。新聞が最終回になるところが切ない表題作。
 戦地に赴いた夫と故国に残された妻との手紙で描かれる「太洋の側の島」 。戦地の地元の人々の不思議な風習と、なぜか戦地と故国をつなぐ戦闘機。
 「L.H.O.O.Q」は、妻をなくした夫の独白。妻が残した犬が行方をくらませて、探すんだけど…。
 3編ともSFかと問われると困るけど、「うどん、キツネつきの」と同じ、少し不思議な物語群。
●「ジャン=ジャックの自意識の場合」樺山三英著、徳間書店、2007年5月、ISBN978-4-19-862330-2、1900円+税
2018/9/2 ★

 ジャン=ジャック、あるいはJ.J.は、ジャン=ジャック・ルソー。J.D.は、ジャック・デリダらしい。日本人医師にルソーが降臨して、子どもを集めて、島で “世界の救い主”を育てようとする。
 第1章「巨人」、主人公のぼくは、アンジュを救うために一緒に島を逃げ出す。第2章「塔」、第3章「船」、第4章「天使」と、ぼくを主人公に、島、子ども達、船、塔とイメージが共通するが、あまり連続性はない話が続く。 第5章「水」の手紙がある種の解題。成長途上の子どもに対して行われる、ロボトミーの延長上にある脳機能の段階的な破壊実験。 その結果、集団的無意識の海で、意識はどのような挙動をするのか。
 幻想的に描かれた実験心理学的SFなんだろう。エーミールのイメージは必要だったのかな。フォントが読みにくい…。
●「テキスト9」小野寺整著、早川書房、2015年4月、ISBN978-4-15-209434-6、1900円+税
2018/9/1 ★★

 フーチーベンを開祖とする仮定物理学。成立可能な世界すべてに共通な構造を研究する仮定物理学。仮定物理学研究者の主人公が、世界を陰で支配するムスビベに地球に召還され、脱獄した囚人に奪われたオーウェル型ジェネレーターを取り戻すことを依頼される。というか強引に派遣される。一方、マルチヴァース世界の間をつなぐホールを支配するホールブラザースは、世界が何者かに侵略されていることに気付き、敵を探り始める。という出だしから、オーウェル型ジェネレーターと、それを盗んだ囚人の正体。そして、仮定物理学の開祖や、ムスビメの起源の真実も明らかになる。ような、そうでもないような。
 重要なキーワードは翻訳。イントロで、主人公がどんな姿形でも人間であると翻訳して記述する。その他の動植物も、主人公が人間であると仮定した上で、相対的な位置関係で翻訳しておく。この小説で描かれている物は、そのまんまとは限らないという宣言。そして、最後に説明される翻訳装置「トーラーの典範」。ここで語られた言葉も、人間も、景色も、翻訳の結果であり、描かれた通りとは限らないという解題。
 感情を自由に制御する麻薬エンバシニック。金銭や資産だけでなく、履歴・地位・健康状態などすべての個人の情報を“カネ”として組み込んだ概念スタッシュ。惑星世界までも創り出す宇宙を記述する機械、オーウェル型ジェネレーター。いろんな意味で迷宮のような囚人船、ユーツナル号。誰も誤解することはなく矛盾する言明がつくれない完全言語。そしてトーラーの典範。次から次へと繰り出されるさまざまなガジェット、さまざまな説明に気を取られているうちに、迷宮に誘い込まれなにが現実か判らなくなる…。でも大丈夫。最後から二つ目の数ページで、一つの説明が提示される。それで判ったのかは判らないけど。
●「ガルム・ウォーズ 白銀の審問艦」押井守著、角川書店、2015年4月、ISBN978-4-04-730419-2、1700円+税
2018/8/29 ★

 惑星アンヌンで闘いに明け暮れていたガルムの八氏族は、いまや三氏族が残るのみとなっていた。そこに天空から世界を破壊する謎の存在セルが飛来するようになり、三氏族は力を合わせて立ち向かうが、徐々に滅亡に近付きつつある。ようやくセルの母艦とおぼしきマラークを撃墜したが、その落下地点に向かったものは、全滅するか記憶を失って帰ってきた。主人公は、審問官として、関係者の審問を通じてその謎に迫っていく。
 生殖を行わず、死んだらクローンに記憶を移して復活して再び闘い続けるガルムたち。その起源と闘いの訳は、さっぱり解らない。結局のところセルやマラークの正体も曖昧。一方で、惑星アンヌンの正体は途中で分かる(よくあるパターン)。ガルムの社会構造がどうなってるのか疑問だし、食料生産などライフラインの維持のされ方も疑問。SFっぽいファンタジーってところか。
●「A/Identify」大隆哲裕著、幻冬舎、2018年5月、ISBN978-4-344-91556-5、1300円+税
2018/8/29 ★

 とある企業が、AIを使ったディープラーニングで営業の効率化を図るプロジェクトを立ち上げ、その担当を任命されたドジっ子の若い女性主人公。相棒を組まされたのは、優秀だが変人の男性社員。なんにも判ってない主人公は、なぜかみんなに好かれ、なぜか仕事はうまくいく。定番過ぎて、ちょっと引くくらい。営業のプロジェクトから、犯罪予測プロジェクトに異動させられ、やがて大規模なテロ事件の解決に取り組むことになる。
 シンギュラリティが間近に迫った世界というところはSFっぽいのだけど、ディープラーニングもテロの方法も目新しくもない。重要な役割を果たすテレ・イグジステンスも、まあ驚くほどではなく。ストーリー自体に、SF色がほとんどない。
●「忘られのリメメント」三雲岳斗著、早川書房、2018年8月、ISBN978-4-15-209769-9、1700円+税
2018/8/29 ★

 リメメント技術が発達し、切手大で肌に貼り付けて使用することのできる疑憶素子MEMによって、自分の体験を記録し、他者の記憶を体験することができるようになった時代。主人公は、自分の体験を記録して販売する憶え手<メメンター>。売れっ子の彼女は、プロダクションの社長に呼ばれ、疑憶素子MEMを生産し業界を仕切る企業の社長に会いに行き、連続殺人犯を捜すことを依頼される。
 リメメント技術を開発し、連続殺人犯でもある研究者。その記憶を受け継ぎ、また一度体験したすべてを記憶する超記憶症候群でもある主人公。両者をめぐって、現実と記憶が混じり合いつつ、ストーリーは展開していく。
 記憶を自由に売り買いするようになった世界、人格の転写、他者のコントロール。リメメント技術の展開は、いろいろアイデアが出てきて面白かった。でも、未来の記憶はちょっと無理があるような。そして、未来の記憶があるとするなら、もっと違った展開させれたように思った。
●「夢の樹が接げたなら」森岡浩之著、早川書房、1999年3月、ISBN978-4-15-208214-3、1900円+税
2018/8/29 ★★

 8編を収めた短編集。「星界の紋章」シリーズで有名な著者だが、それに関連した短編は含まれない。
 表題作は、言語の速習できる学習法が広まり、会社や個人など単位の独自の人工言語がブームとなった世界の話。日本語のコミュニケーションがとれなくなる言語の謎を、主人公の言語デザイナーが探る。進化の定義が気になるけど、面白い。多くの人が暮らす世界はどうなってるのか、そこがとても気になる「普通の子ども」。人の定義とはなんだろう、そこが気になる「スパイス」。経済的SFである「無限コイン」。ネットでお気に入りのニュースだけ追って、それが世界のすべてと思い込むって、実現してるよね「個人的な理想郷」。「代官」は救いがなくて哀しい。普通名詞のない、あるいは普通名詞が1つしかない言語世界「ズーク」。AIがどんどん人間のすることを奪っていく中、ついに魂にまで手を出そうとする「夜明けのテロリスト」。という要約は少し違うけど、魂のようで魂じゃないプスィコンの説明は長くなる。粒よりの短編が並んでると思う。
●「突変」森岡浩之著、徳間文庫、2014年9月、ISBN978-4-19-893889-5、1000円+税
2018/8/27 ★★

 地球のあるエリアが、並行宇宙の地球(仮)の同じエリアと入れ替わってしまう現象「突然変移」略して「突変」。世界各地で突変は起こっており、新型災害「移変災害」として認識されている。久米島、大阪周辺に続いて、東京の花咲ヶ丘において、日本で3番目の突変が発生。突然、異世界に行ってしまった人々の最初の3日間が描かれる。
 と言われてイメージするストーリーとは少し違っている。なんせ向こうの世界にはすでに久米島や大阪の人々が先に行っていて、いわば心ならずも後から入植する人たちの話っぽい。世界各地で起きている現象なので、こちらの世界でも向こうの世界が研究できる。向こうの世界の生きものはチェンジリングと呼ばれて、図鑑も出来ていたり。一部の地域が向こうの世界に行ってしまうことで、家族が離ればなれになる悲劇も、きちんと描かれる。向こうの世界の人々が、苦労して生き抜くのはもちろんだが、移変が生じるリスクが加わることで、こちらの社会にも変化が起きるところも描かれる。
 突然変移の原因は明らかにされないが、それによって生じる事態が、丁寧に描かれていて、それだけとも言えるのにとてもオリジナリティが高く仕上がっている感じ。ただ、並行宇宙だとしたら、どの段階で分岐したのかは、結論が出てもよかったのになぁと思う。「鳥無き里に花が咲くパラドクス」はちょっとワクワクしたのに。
●「ウニバーサル・スタジオ」北野勇作著、ハヤカワ文庫JA、2007年8月、ISBN978-4-15-030898-8、620円+税
2018/8/22 ☆

 大阪にあるウニバーサル・スタジオ・オオサカを舞台に繰り広げられる北野ワールド。この世界と似てるのに、かなり違う大阪が舞台で、大阪名物が次から次へと出てきて楽しいのだけど。やがて飽きてくる。すみません。最後まで読むのが辛かった。
 現実世界なのか、実はテーマパークのアトラクションなのか、現実がなにか判らなくなる感じは、面白い。んだけど、よく判らないまま終わる。ディック好きなら楽しめる作品なのかも。
 カメ出てくるし、ザリガニもクラゲも出てくる。北野ワールドのキャラクター総出演。で、ウニバーサル・スタジオ・オオサカは、おそらく通称USO。だから面白い。面白いねんて。最後まで読むのは辛いけど。だから薦めにくいけど。
●「ラザロ・ラザロ」図子慧著、ハヤカワ文庫JA、2008年7月、ISBN978-4-15-030929-9、900円+税
2018/8/20 ☆

 末期の癌患者を完治して、若返り効果まで持つ謎の治療法を巡るメディカル・サスペンス。
 画期的な治療法を開発した研究者は、病院の火事とともに姿を消した。その研究者から治療法を売るというコンタクトが製薬会社に。そこから物語は展開し始める。取引の下調べをする外資系製薬会社の担当者と、病院跡地に出入りする謎の男。アメリカ本社から来た製薬会社重役、謎の美女、荒っぽい男達、関係者の娘などが入り交じって、暗躍する人々の秘密が明らかになっていく。
 伏線は一通り回収されて、きちんとしたミステリ。ではあるけど、謎の治療法はフワッと説明されるだけで、科学風な突っ込みがほとんどない。帯にある通りメディカル・サスペンスであって、SFじゃない。
●「AIと人類は共存できるか?」長谷敏司・藤井太洋ほか著、早川書房、2016年11月、ISBN978-4-15-209648-7、2100円+税
2018/8/18 ★★

 早瀬耕、藤井太洋、長谷?司、吉上亮、倉田タカシの5人の作家が、それぞれ倫理、社会、政治、信仰、芸術をテーマに、AIと人との関係を描いたアンソロジー。それぞれの作家の短編の後に、1人ずつ研究者が作品を受けて、テーマにそった研究の話を展開する。それが、なぜかSF的だったりして面白い。
 藤井太洋の作品は再録だが、あとはこのアンソロジーのために書かれたものっぽい。企画の趣旨も、それぞれの作品・作家の紹介も、アンソロジーにありそうな前書きも後書きもないという、不親切というか斬新な一冊。
 早瀬のテーマは倫理。この作品のテーマが倫理というのは最後まで読まないと判らない。IT関連企業に勤めていた主人公は、トランスジェンダーな恋人を持ち、カウンセラーをAIじゃないかと疑っている。差別的に扱われがちなマイノリティとの付き合い方の物語かと思うと、もっとどんでん返しがあった。
 藤井のテーマは社会。銃規制問題でアメリカ合衆国から独立したアメリカ自由領邦。依頼者とともにそこに潜入する探偵の話。だが、思わぬ社会変革に遭遇する。分散した小ユニットが連携して知的活動をする。という言い方をしたら、ありがちな話に聞こえるなぁ。
 長谷のテーマは政治。政治的判断をAIに任せようとしたら、人がさらに大忙しになるって話。ある意味、テーマをストレートに描いてる。
 吉上のテーマは信仰。原発事故で被災したエリアをゾーンと呼んで、そこへの観光客を案内するのがストーカー。って、あの作品やん。10万年後から、AI黎明期を振り返る話でもある。
 倉田のテーマは芸術。AIと芸術ってテーマよりも、軌道上から再突入で芸術作品を作るってところが一番印象的。
●「機龍警察 火宅」月村了衛著、ハヤカワ文庫JA、2018年5月、ISBN978-4-15-031338-8、680円+税
2018/8/17 ★

 機龍警察シリーズ初の短編集。8編が収められているが、その掲載誌はさておくとするなら、SFと呼べるのは、多めに言っても4編。
 「焼相」は、機甲兵装を使った立てこもり事件を解決する。元テロリスト、ライザの話。「輪廻」は、少年兵をつくりあげる話。元傭兵、姿の話。「雪娘」は、過去と現在の殺人事件の真相が明らかになる。ロシア人頸部、ユーリの話。しかし、この3編は、機甲兵装が重要な役割を果たすからSF的というに過ぎない。本当にSFと呼べるのは、最後の「化生」だけかも。龍機兵の秘密を解き明かそうとする動きとの闘い。これは沖津部長の話だろう。
●「ラ・イストリア」仁木稔著、ハヤカワ文庫JA、2007年5月、ISBN978-4-15-030890-2、720円+税
2018/8/13 ★

 「グアルディア」と同じ世界、同じく中南米を舞台にした第2弾。ただし時代は、「グアルディア」の400年前。
 バイオテクノロジーが発展し、食肉から奴隷種族までを産み出す人工子宮が普及。軌道上の人工知能が世界を治める。そんなテクノロジーの絶頂期は、キルケーウイルスというDNAを混ぜ合わせ、変異しまくるウイルスの蔓延で、崩壊する。文明の多くが失われた世界で、ウイルスを恐れつつ暮らす人々の生活に、かつての文明の断片が見え隠れする。
 わずかに生きのこったコンピュータネットワークにアクセスする美少女型端末への、愛の物語が軸。ただむしろ印象的なのは、やがて装着者の精神を破壊する生体甲冑や、かつての人工知能の管理者たちの暮らしぶり。
●「未来職安」柞刈湯葉著、双葉社、2018年7月、ISBN978-4-575-24106-8、1400円+税
2018/8/12 ★★★

 タイトル通り、ちょっと未来の職安の話。職業安定所というか、職業を斡旋する仕事をする所長のおじさんと、そこで働く若い女性のストーリー。とだけ書くとありがちな設定なのだけど、その未来はひと味違う。
 すべての國民には生活基本金が支給されていて、そもそも働く必要があまりない。単純労働はすべてロボットがこなすので、そもそも仕事があまり多くない。労働はいわばエリートのステイタス。そんな社会での職安は、ひと味違う。ってゆうか、所長の趣味らしいけど、それなりに真面目に機会に代替できない仕事を紹介していく。
 不思議な仕事がいろいろ。 運転が自動化されて元の仕事がなくなり、“責任をとって止める”ことが仕事になった交通課。秘密を守るために、防犯カメラに写る仕事。オンブズマン組合は、本来職業にする必要のないところに無理に職をつくって、税金が投入されていないか調べる外部機関。
 ガジェットもいろいろ。ネコの代わりのネコッポイド。めっちゃしゃべってくれる無人タクシー。ちょっとした言葉から、社会システムまで、次から次への未来ネタが出てきて、未来のアイデアの密度が高い。とても楽しい。
 この本には、正誤表が入っている。第2章のタイトルを「未来公務員」から「未来就活」へ。「未来公務員」でも問題なさそうなのになぁ。あとがきまでも、作品の一部として、ファンタジーな著者のこと、これもネタなのかなぁ?
●「未来製作所」太田忠司・北野勇作・小狐裕介・田丸雅智・松崎有理著、幻冬舎、2018年6月、ISBN978-4-344-03314-6、1300円+税
2018/8/8 ★

 5人の作家が2編ずつ書いて、10編を収めた短編集。というかショートショート集。たしかに1作品は、9〜15ページしかない。短いのでワンアイデアを提示して終わるのが多く、読みやすい。
  プロローグを読むと「移動やものづくりは、いったいこの先どうなっていくのだろう」に焦点を当てているらしい。なるほど出てくるのは、ワンルームカー、犬型パソコン、散歩する工場、登山もできる車椅子、 考え事用の動かない自動車、ダイヤモンド惑星、交通事故をなくすラプラス・システム、砂漠の歩行補助機、ドルフィン・スーツ、人間が運転する自動車。ダイヤモンド惑星だけ、他のと少し異質。発明ではなく発見の物語。
 単なる発明の物語に留まらない最後の4編がいい感じ。
●「神林長平トリビュート」虚淵玄・円城塔・辻村深月・他著、ハヤカワ文庫JA、2012年4月、ISBN978-4-15-031063-9、760円+税
2018/8/7 ★

 8人の作家が神林長平の8作品を取り上げて、それに関連した作品を書いたアンソロジー。最初に神林長平自身の序文がある。
 作品は、桜坂洋「狐と踊れ」、辻村深月「七胴落とし」、仁木稔「完璧な涙」、円城塔「死して咲く花、実のある夢」、森深紅「魂の駆動体」、虚淵玄「敵は海賊」、元長柾木「我語りて世界あり」、海猫沢めろん「言葉使い師」。初期の名作が多い。
 作品の描かれ方はさまざまで、「狐と踊れ」は胃が主人公の話だし、「七胴落とし」はネコと子どもが会話する話。「敵は海賊」は、そのまんま「敵は海賊」の前日譚、カーリー・ドゥルガーの物語として採用してほしい。もとの作品を読み直さないと、充分には楽しめない作品もあって、なかなか難しい趣向。
●「炎の記憶」田中芳樹著、創元SF文庫、2017年9月、ISBN978-4-488-72522-8、960円+税
2018/8/6 ★

 田中芳樹初期短編集成のその2として、11編を収めた短編集。表題作「炎の記憶」に始まって、「夜への旅立ち」「夢買い人」は、創流伝の原点という三部作らしいけど、長編の途中までという感じで、単体でも、三部作でも全然完結していない。「白い顔」は、アメリカに黒人大統領が生まれる前のお話。「長い夜の見張り」は、長い年月の果てに地球に戻ってきたら…、な話。「ブルースカイ・ドリーム」と「死海のリンゴ」は、スパイ小説的な。 「銀環計画」は地球温暖化に伴う一つの解決法。一番好きな作品かも。「訪問者」はタイムトラベルなショートショート。「戦場の夜想曲」は、少しフシギくらいの話。「闇に踊る手」は、伝説のアレを巡るホラー。
●「緑の草原に……」田中芳樹著、創元SF文庫、2017年9月、ISBN978-4-488-72521-1、920円+税
2018/8/4 ★

 田中芳樹初期短編集成のその1として、9編を収めた短編集。「銀河英雄伝説」や「アルスラーン戦記」をはじめとして、長々と続く架空の歴史小説というか、大河ドラマみたいなのでよく知られた著者だけど、しっかりした短編SFを書いたりもするんだなぁ(昔は?)という作品集。
 「緑の草原に…」は正統派ファーストコンタクト物。同じアンドロイドが登場する「黄昏都市」。この世界をもっとシリーズにすればよかったのに。タイムマシンで逃避行の「いつの日か、ふたたび」の結末はかなり無理が…。「流星航路」は宇宙船船長、「懸賞金稼ぎ」は賞金稼ぎのちょいとした話。「白い断頭台」はスキーヤーが巻き込まれた死の陰謀。なんでそんな陰謀を企むのかよく分からんけど。「品種改良」は迂闊なものを食べると大変なことになるという話。「深紅の寒流」「黄色の夜」は、冒険小説やんね。そつなくまとまってる作品ばかりだけど、どこか古めかしい。
●「シオンシステム[完全版]」三島浩司著、ハヤカワ文庫JA、2012年2月、ISBN978-4-15-031057-8、940円+税
2018/8/2 ★

 シオン系統のレース鳩から見つかった原虫を用いた「虫寄生医療」。免疫力を高めさまざまな病気を治癒する脅威の医療で、既存の医療の関係者からの反発が強く、その認可をめぐって、さまざまな政治的な駆け引きが行われている。しかし、実は「虫寄生医療」をさらに進めたシオンシステムがすでに実用化され、さらに強力な治療効果を持つのみならず、驚きの副作用も。というか、驚きの副作用が、次から次へと。
 すべての始まりとなったシオン系統を含めたレース鳩のエピソードを間にはさみつつ、シオンシステムを巡る駆け引きと、事件が描かれていく。
 「虫寄生医療」の行き着くところを描くまでは面白いんだけど、どうして全ての起源となった女性を投入したがるのかなぁ。 あと、明らかに進化を間違って理解しているのが気になりすぎる。普通に人為選択で説明すればいいところに、どうして原虫の意思みたいなのを持ち出すかなぁ。
●「そばかすのフィギュア」菅浩江著、ハヤカワ文庫JA、2007年9月、ISBN978-4-15-030902-2、680円+税
2018/8/1 ★★

 8編を収めた短編集。なんだけど、短編集「雨の檻」に「月かげの古謡」を付けて改題したもの。
 アンドロイドやAIと人との交流を描いた「雨の檻」「カーマイン・レッド」「そばかすのフィギュア」、クローンや試験管ベビーを扱った「セピアの迷彩」「ブルー・フライト」、新型性病の治療にまつわる「カトレアの真実」、一種の超能力者の悲哀を描く「お夏 清十郎」。と、テクノロジーと人の関わりを扱ったSFが並ぶ中、ファンタジーの「月かげの古謡」は浮いている。
●「パーフェクト・ワールド」鈴木隆之著、論創社、2014年11月、ISBN978-4-8460-1386-8、2000円+税
2018/8/1 ★

 地球に小惑星が衝突。それをきっかけに、世界的な破滅の危機が…。そこで立ち上がったのが世界的な金持ちを中心とした賢人組織。そこで策定された火星移住計画を実行に移す最初の段階として、南極とエベレストに造られた2つのコロニー。コロニーへのチケットを求める人々をよそに、やがてコロニーは人々の受入を止め、その他の世界は破滅へ向かっていく。その状態に疑問を持ったエベレスト・コロニーの内と外の2人が、世界を救う。
 世界を手玉にとった詐欺師の話であり、永遠のラブストーリーといったところ。ただ仕掛け人の都合良く展開しすぎな気がする。
 人生に定年制があるエベレスト・コロニーの不思議なシステムは、妙に印象に残った。
●「ここから先は何もない」山田正紀著、河出書房新社、2017年6月、ISBN978-4-309-02586-5、1900円+税
2018/7/31 ★

 小惑星で見つかった謎の人骨。その謎を解くべく、研究者チームが立ち上がる。のかと思ったら、前半はアメリカ軍が秘匿してしまった謎の人骨の情報を奪おうとする、ハッカーな作戦。面白いエンターテイメントではあるけど、SFではなく、単なるハッカー小説。後半の謎解きを受けて、読み返すと新たな視点が開けて面白い、ってほどでもないし。
 後半は、なぜか潜入したハッカーチームによって、謎が解き明かされる。なんの専門家でもないのに変なの。研究者チームは謎を解かなかったの? ミステリー風の謎解きはさておき、神のような存在が登場してきた時点で、興ざめてしまった。
  それにしても、人類が生まれる前の時代なのに、Artificial Intelligence (人工知能)って言葉は違和感満載。誰かがつくったってことかな。それは誰? 自然発生したじゃダメなのかな。
●「あるいは脳の内に棲む僕の彼女」松本晶著、角川春樹事務所、2010年6月、ISBN978-4-7584-1154-7、1900円+税
2018/7/29 ★

 主人公は、難病を抱えたオタク。同じ難病のオタク仲間から、美少女フィギュアのような最新型アンドロイドを、遺産として引き取った。美少女アンドロイドに介護されつつ、突如現れた理想の彼女のような存在に戸惑う主人公。そして、美少女アンドロイドをさらって、暴行を加え、残虐に“殺し”、そのビデオを売りさばく裏の組織が絡んだ事件に巻き込まれていく。
 人やアンドロイドをさらって、パーツにして売りさばく組織。それを攻撃するアンドロイド。全身擬体の難病の少女。何かを隠している美少女アンドロイド。
 裏の組織は醜悪で、気持ち悪い。それを除けば、アンドロイドの彼女を守るために、難病をおして立ち向かうストーリーは、かなり読ませる。ただ、最後に社長が出てきて謎解きする辺りから、興ざめてしまった。どんでん返しに次ぐどんでん返しを入れ込みすぎじゃないかなぁ。真実が何か判らない感じで終わらせるのはいいけど、主人公の正体とか説明されてないのは気持ち悪い。
●「うなぎばか」倉田タカシ著、早川書房、2018年7月、ISBN978-4-15-209781-1、1400円+税
2018/7/28 ★★

 ウナギが絶滅して、少し経った時代の日本を舞台に、ウナギになにかしら関係のある5編を収めた短編集。帯に連作短編集って書いてあるけど、世界は一緒かもしれんけど、別に連作じゃないよなぁ。な感じ。
 表題作は、ウナギが絶滅した後、何代も続くウナギ屋の主人が菜食主義なレストランで頑張る姿を、息子目線で描く。あの時ウナギを守れなかったかなぁ、との後悔が切ない。
 「うなぎロボ、海を行く」は、密漁監視のために開発されたウナギ型ロボットの活躍。ウナギの絶滅をきっかけに、遅まきながら世界中で漁業への制限が強められた。という設定なのだが、ウナギが絶滅しても、日本政府や水産庁が心を入れ替えるとは思えない。
 「山うなぎ」は、アマゾン奥地にウナギに似た獣肉を手に入れに行く話。動物愛護の身勝手さを皮肉交じりに描く。
 「源内にお願い」、ひょんなことからタイムマシーンを手に入れた二人は、ウナギの絶滅を阻止すべく、平賀源内に交渉に出かける。すると、なんと、もっと大変なことに…。
 「神様がくれたうなぎ」では、神様が、恋愛相談より、ウナギの絶滅阻止を優先しようとする。変な神様。
●「サマー/タイム/トラベラー」(1・2)新城カズマ著、ハヤカワ文庫JA、(1)2005年6月(2)2005年7月、(1)ISBN978-4-15-030745-8(2)ISBN978-4-15-030803-9、(1)660円+税(2)660円+税
2018/7/26 ★★

 タイムトラベル物の小説なのだけど、タイムマシーンもタイムパラドックスも、それどころか別の時代も出てこない。ある高校生がタイムリープをするらしいのだが、それを普通の時間線から見てるだけ。そういう意味ではエマノンに似てるかも。
 高校1年生の5人組の一夏の青春ストーリー。マラソン大会のゴールで、その内の一人がタイムリープした(ってゆうか、現象的には瞬間移動)。で、5人はその現象の研究プロジェクトを始める。タイムトラベルの文献調査を行い、現場を訪れて再現実験を繰り返す。1巻から2巻の前半は、とくに大きなイベントは起きずに終わる。ただ、最初にホントかなぁ、と始めた実験だったが、1巻の半ばでホントだ!となり、2巻でタイムリープを本人がコントロールできるようになる。そして、2巻の後半で、事態は急展開。5人がある事件を引き起こし、あるいは事件に巻き込まれて、いくつもの謎が明らかになる。
 せつない感じのエンディングを含めて、全体的にはSFというより、王道の青春物。エンディング以外は、タイムトラベラーがなくても小説として成立できたんじゃないかと思う。しかし、この作品はある種のSF好きには間違いなくお勧めできる。SF作品というより、SFを描いた小説として。なんせ出てくるネコはさまざまな名前を持っていて、それが、ジェニィ、ク・メル、チェシャ、ハイミー、アプロだったりするんだから。
 高校生達が作戦会議をするのは、メンバーの一人の親のカフェ。そこには大量のSFが並んでいる。5人のうち4人は、SFを含め様々な小説を読んでおり、しばしばその内容に言及あるいは引用する。クラーク、アシモフ、ブラッドベリ。2001年宇宙の旅、スターウォーズ、猿の惑星などなど。そして極めつけは、彼らは、タイムトラベル物のSF(tt小説と呼んでる)を集めて読みまくって、タイムトラベルの研究を始める。さまざまなタイムトラベルSFの名前が飛び交う。そして、tt小説のパターンを、過去の改変可-不可、タイムトラベルに旅立つ理由を俯瞰欲-悔恨欲の2軸に整理してみたり。タイムトラベル物とディックは自己言及性という点で似ている。
 タイムトラベル物SFへの突っ込みも楽しい。過去に行った時間旅行者がまず賭博で一儲けは、歴史を改変しないのか? タイムトラベラーはどうして地球の自転と公転にぴったり同期できるのか? 未来へのタイムトラベルは、なぜ以前ほど書かれなくなったのか? 意識だけが時間を跳躍しても、脳内の微粒子の状態は変わるので、何らかのパラドックスは起きるのでは? ハーレクイン・ロマンスでなぜ時間旅行譚が流行するのか? SF論としても読めるかも?
 高校生たちは、喫茶店や町のアチコチで、研究プロジェクトに関係のない議論もいろいろ戦わせ、いろんなアイデアを開陳する。それ自体がとてもSF的だったりする。遺伝子デザイン技術が発達していけば、生まれた後からでも自分の遺伝組成を変えられ、遺伝情報レベルで親を選べるようになるんじゃ?とか。なぜか一番印象に残ったのは、イスラム教徒たちの祈りがつくりだす定常波のイメージ。
 街中のあちこちに監視カメラを仕掛けて監視してみたり、あちこちハッキングして色んな情報を集めたり、地域通貨の破綻、数週間おきに記憶が入れかわるS=Z症候群などなど、気になる設定も多数。BGMは、シカゴの“Saturday in the Park"やサイモン&ガーファンクル。テレビではツール・ド・フランスが流れている。年代がピッタリの人にはとても楽しい作品。年代ずれて、古いSFを読んでない人が楽しめるかはよく分からない。
●「そいねドリーマー」宮澤伊織著、早川書房、2018年7月、ISBN978-4-15-209783-5、1300円+税
2018/7/21 ★

 夢の世界は、他の人とも共有していて、夢の中で夢の中にいることに気づける一部の人々は、起きている時のように夢の世界で活動することができる。このナイトランドには、睡獣と呼ばれる存在が巣くっていて、人々に悪影響を与える。人々を睡獣から守るべく、ナイトランドで活躍するのは、主人公をはじめとするスリープウォーカー。他にもスリープウォーカーはいるかもしれないが、とりあえずここで出てくるのは、女子高生5人からなるスリープウォーカーのチーム。
 主人公が、ひょんなことからスリープウォーカーにスカウトされた主人公は、ナイトランドからデイランドへの悪影響を防ぐべく、活躍。同時に一種のラブストーリーが展開。
 これって一件落着のようでいて、終わってないよね。好評なら続編があるに違いない。
●「スピードグラファー3」仁木稔著、ハヤカワ文庫JA、2005年12月、ISBN978-4-15-030829-2、640円+税
2018/7/20 ☆

 ひたすら人が死にまくる。姫の血で特異能力を身につけた変態権力者が次から次への登場して、暴れては死んでいく。はては、東京が壊滅の危機に。
 一番不思議だったのは、そもそも日本に数十兆円の札束が存在するのか?って事だったり。ばれずにかき集めたり出来るのか?って事だったり。
●「スピードグラファー2」仁木稔著、ハヤカワ文庫JA、2005年9月、ISBN978-4-15-030816-0、640円+税
2018/7/20 ☆

 逃避行から連れ戻されて、悪者と結婚させられそうになるお姫様。それを結婚式当日に教会から救い出す。『カリオストロ』ですね。と思ったら、本当にそのまんまで笑ってしまった。その後は、ルパンというよりは、駆け落ちのような感じに。
 後半は一転して、借金の形に少年兵として売り飛ばされた少年が、生き延びて這い上がり、現在に至る話。
●「スピードグラファー1」仁木稔著、ハヤカワ文庫JA、2005年7月、ISBN978-4-15-030804-7、640円+税
2018/7/19 ☆

 原作者が他にいるアニメのノベライズ。日本に帰ってきてぼんやり過ごす戦争カメラマンが、金持ちが集まる秘密クラブに潜り込むことになって、そこで女神にキスをされて超常能力を持つことに。なぜか女神であるところの女子高生を連れて、人殺しをいとわない追っ手から逃げまわることに。
 主人公と女子高生がどうして、一瞬で信頼しあってるのか意味が分からん。社会的地位のある変態たちの戯画めいた激しい執着はなんなんだろう。主人公に執着する女刑事も意味不明。母親とメイド達による女子高生への家庭内いじめも何をしたいのかよく分からない。とにかく、よく分からない執着だらけ。関係者はすべて、ウイルスに感染してて、行動が変。というオチだろうか。
●「機龍警察 自爆条項[完全版]」(上・下)月村了衛著、ハヤカワ文庫JA、2017年7月、(上)ISBN978-4-15-031285-5(下)ISBN978-4-15-031286-2、(上)700円+税(下)680円+税
2018/7/17 ★

 「機龍警察[完全版]」に続いて、自爆条項も完全版(解説によれば、以降のシリーズは完全版化しないらしい。安心して買おう)。前回は傭兵が主人公で、その過去が語られ、狙われた。そして、今回はテロリストが主人公で、その過去が語られ、狙われる。どうしてテロリストから足を洗い、死を願っているのかも明らかになる。
 このシリーズは、ハードボイルドなパトレイバーだとばかり思っていた。帯に“最高水準の警察小説”とあって、おかしいなぁと思った。読んでみると、どっちかと言えば、国際謀略やらテロリストやら警察内部の確執の話で、確かにSFではない。3機のドラグーンの由来は謎のままというか、まるで追求もされない…。シリーズ2巻以降はSFじゃないのかも。面白いので読むけど。
●「LABS 先端脳科学研究所へようこそ」機本伸司著、祥伝社、2018年7月、ISBN978-4-396-63549-7、1400円+税
2018/7/15 ★

 脳科学研究の被験者のアルバイトに応募した主人公が、恋に仕事に頑張る感じ。その研究は、とりあえず非侵襲性の機材で、人が考えていることを映像として読み取るというもの。さらにその発展形として、考えている映像を他人に伝えるところまで踏み込もうとする。もはや人工テレパシーの研究。その政治的・軍事的価値から、事件が起こる。
 主人公がエッチなことばかり考えていることが丸わかりになって、恥ずかしい思いをしたり。その延長線上で、なんでもと見とれるようになった時、社会は成立するのか?という問い。軍事的・政治的にどんな可能性があるかという議論。さらに発展して、個人の考えをコントロールして、ひいては社会のコントロールにつながる可能性にまで言及される。そこまで描きはせずに終わるのだけど。
●「ハリアー・バトルフリート」米田淳一著、ハヤカワ文庫JA、2003年7月、ISBN978-4-15-030728-8、720円+税
2018/7/15 ☆

 「エスコート・エンジェル」「ホロウ・ボディ」「フリー・フライヤー」「グリッド・クラッカーズ」に続く、プリンセス・プラスティックシリーズの第5弾。 で、たぶんこれで終わり。
 「グリッド・クラッカーズ」の続きで、アジア共同体のシステムが攻撃されてるんだけど、肝心の最強ロボット2人組は、ちょうどアップデート中で動けない。人間だけが頑張るけど、やられてしまう〜。ってところで、正義の味方が登場して、事件は解決する。ウルトラマンが出てくるまで科特隊が時間稼ぎをするイメージ。
 いろいろ気になるところのあるシリーズだけど、科学的・哲学的なはずの会話もまた残念過ぎる。最新鋭の最強ロボットを開発したチームの面々、つまり世界で一番頭の良いメンバーが揃ってるって設定のはずなのに、その会話が全然賢そうじゃ無い。とても底の浅い、素人っぽいやりとりしかしていない。ドーキンスが出てくるんだけど、利己的遺伝子の理解は間違ってるし、ミームは表面的になぞってるだけ。そして“ミームの乗り物が生命” てな発言まで飛び出す。飛び出すのはいいけど、スルーしたらアカンやろ。
●「グリッド・クラッカーズ」米田淳一著、ハヤカワ文庫JA、2003年5月、ISBN978-4-15-030720-2、700円+税
2018/7/14 ☆

 「エスコート・エンジェル」「ホロウ・ボディ」「フリー・フライヤー」に続く、プリンセス・プラスティックシリーズの第4弾。
  相変わらず面白くない。最初の1/3は、ロボットのメンタルケアの相談と、登場人物たちの過去と恋愛事情という幕間のような内容。次の1/3は、ちょいとした事件が起こって、あと最強ロボット2人組が軍事演習であっさり圧勝するだけ。これも幕間かなぁ。最後の1/3で、ようやく本編。危険なロボットを廃棄するかどうかが国連で話し合われる。ちょうどその頃、悪役さんがアジア共同体を統べるシステムへの攻撃を再開。サイバースペースに、育て上げた人工生命体を解き放つ。続く。
 なぜか男性は名字で呼ばれ、女性はファーストネームなんだなぁ。と妙なところが気になった。
●「フリー・フライヤー」米田淳一著、ハヤカワ文庫JA、2003年3月、ISBN978-4-15-030713-X、700円+税
2018/7/12 ☆

 「エスコート・エンジェル」「ホロウ・ボディ」に続く、プリンセス・プラスティックシリーズの第3弾。謎の空賊を成敗に出かけたら、アジア共同体を統べるコンピュータへのハッキング事案に遭遇。ヒト型のロボットが、どちらもあっさり解決する。
 主人公は、2人。見た目は若い女性型のバイオロボットなのだけど、変形して空を飛び回れるし、ワームホールという名の四次元ポケットから大量に兵器を取り出して攻撃できる最強の兵器。つまりクールビューティーで、攻撃型のドラえもん。
 事件自体は、短編程度の長さで、あっさり処理してしまうのに分量がやたら多い。それは著者が、やたらと兵器のスペックを書き込み、未来世界へ至る政治的歴史や技術史を書きたがるから。さらに主人公同士の会話は、ストーリーになんの影響もないものが大部分。読者おいてきぼりで 、登場人物同士だけがわかり合うパターンも多い。あとやたらと説明しまくるだけの会話というわざとらしいのもある。ストーリーに影響のない部分を描くことで登場人物に深みを出しているかというと、ぜんぜんそうでもない。あと、ロボットに心を持たせて、人類の運命を任せれば安心。という意味不明のロジックがたびたび登場。全然納得できない。とにかく読むのがつらい。
●「サバイバー・ミッション」小笠原慧著、文藝春秋、2004年10月、ISBN978-4-15-031274-9、1524円+税
2018/7/11 ★

 若い女性を殺して首を持ち去る連続殺人犯ヘッドハンター。特命を受けてその事件を追う若き女性捜査官。完全に「羊たちの沈黙」やね。と思っています。自分では出かけない相談相手のドクターもいるし。ただしこちらのドクターはAIらしい。などと安易に思っていたら、思った以上に「羊たちの沈黙」な展開になって驚いた。
 SFと想定して読んだが、SFというよりサスペンス・ミステリな作品。ミステリとしての評価はしてない。死者の記憶を読んだり、人格のデジタル化が出てくるけど、そうした今や珍しくないガジェットだけではSFとして足らないことが分かる。
 一つ面白かったのは、2013年を舞台として、2004年に書かれていること。大震災があったという記述があって驚いたら、首都直下型地震であった。そのため、東京の一部がスラム化しているといった設定なんだけど、大震災があった時にどうなるのかの想定が、東日本大震災の現実とかなり違っている。いまとなってはそこが読みどころの一つで、ある意味、SF的ですらある。
●「機龍警察[完全版]」月村了衛著、ハヤカワ文庫JA、2017年5月、ISBN978-4-15-031274-9、740円+税
2018/7/10 ★

 「機龍警察」の完全版だそう。「機龍警察」とどこが変わったのかは、よく分からなかった。でも、久しぶりに読んで楽しめた。基本的には、エヴァのようなパトレイバー。本心を明かさない面倒な司令官もちゃんといるが、ネルフは警察組織内にある感じ。チルドレンは、日本人の伝説の傭兵、ロシアの元警察官、アイルランドの元テロリスト。と、少し違うけど。
 シリーズ第1巻なので、警察組織内でつまはじきにされるポリス・ドラグーンの搭乗者と、特捜科。そして、警察をとくに特捜科を狙う事件が連続して起きる。その背景には警察組織内の黒幕がいるらしい。というところで終了。3機のドラグーンの由来は謎のまま。
●「ウェイプスウィード ヨルの惑星」瀬尾つかさ著、ハヤカワ文庫JA、2018年7月、ISBN978-4-15-031336-4、880円+税
2018/7/10 ★

 海面上昇で地表の大半が水に覆われた地球。人類の多くは軌道上や木星軌道など宇宙に散らばって生活している。残された地球の海は、人によって改造されたミドリムシ変異体のエルグレナが支配し、地球に住む人類は、文明の多くを失い、その片隅で細々と暮らしていた。
 宇宙からの地球調査隊のシャトルが墜落し、主人公は文明の伝承を残した一族の少女の元に転がり込むことに。その2人がエルグレナと菌類(及び海草)の共生体ウェイプスウィードの謎を解き明かしていく。
 人類以外の新たな知的生物の発見、AIと人類との確執、改造されたさまざまな機器を組み込んだ人類。その人類をハッキングしてみせたりと、アイデアは豊富なんだけど、いまひとつはまらなかった。

 とりあえず、コアになるエルグレナの生態がさっぱり描かれないのが不満。それ以前に作者は生物学があまり分かってないような。ウェイプスウィードの説明がそもそもこんな感じ。
「ウェイプスウィードは海草の集合体である。いや菌類と藻類の共生体といった方がいいかもしれない。その正体はといえば、大量の海草を、ミドリムシの変異体であるエルグレナと(中略)肉食の菌類ミセリウトが接続し、ひとつの巨大な群体とした構造体」
 海草と海藻をごっちゃにしてるのは明らか。菌類と藻類の共生体といいながら、地衣類って言葉で出てこない。そして何より海藻と菌類と鞭毛虫類がどのように共生しているのかは、全然説明されない。そもそも、湖にちらばったエルグレナが知性体として機能できるなら、菌類や海藻はいらんのでは?
●「Musio I:電脳メイロ」真山碧著、AKA、2017年4月、ISBN978-4-908992-00-1、400円+税
2018/7/8 ★

 開発中のマスコットロボットに、異世界からの魂が宿った。その世界を守るべく、この地球で善と悪の対決が始まる。といった感じで、夢の世界とも行き来してくれて、いかにもありがちな感じの近未来ファンタジー。主人公の女の子とロボットとのやり取りと友情が読みどころなんだろう。
 SFとしての評価ポイントは、近未来のテクノロジー。魔法がかかってなくても乗客とやり取りしてくれて、目的地を予想してくれるスマートエレベーター。 行き先に応じてばらけたり引っ付いたりする電車のような車のような交通システム。
●「神様のパラドックス」機本伸司著、角川春樹事務所、2008年7月、ISBN978-4-7584-1113-4、1800円+税
2018/7/7 ☆

 量子コンピュータを開発したのはいいけれど、高価すぎてさっぱり売れないので、自分たちで量子コンピュータを利用した事業でも立ち上げよう。ってことで、量子コンピュータを開発した跳ねっ返りの技術者が、占いや人生相談企画を立ち上げようと動く。なぜか宗教がかった感じにすべく、量子コンピュータ内に世界を構築して、そこで神様をつくりあげて、その神様に占いや人生相談をさせようと。でも、神様は一筋縄ではいかないなぁ、って話。
 神様とは何かと企画チームの4人であれやこれや話をするんだけど、驚くほど観念的で独断的。勝手に設定した根拠も曖昧な神様の条件をもとにストーリーが動いていくとか意味不明。せめて、科学的な立場から神の条件を検証しようとでもすればいいのに。そして、曖昧な議論に過ぎないものから、なぜか世界が危機に陥って、クライマックスのアクションシーンへ。ぜんぜんどこにもサイエンスがない。
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