Masashi Yokogawa's Website

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研究紹介

絶滅危惧生物の保全遺伝学

     絶滅の危機に瀕した生き物の遺伝解析を行うことで、対象生物の生態特性や過去の個体群動態、生息・生育地の分断化の影響などを推定することができます。 これらの情報は絶滅危惧生物の保全を行う上でとても役に立ちます。
     私がもっとも力を入れて研究してきた植物はハナシノブ(Polemonium kiushianum)です。 ハナシノブはハナシノブ科の多年草で、阿蘇のごく限られた草原に生育しています。 元々分布域が限られていることに加え、草原の減少に伴い過去数十年で急速の個体数を減らし、最新版の環境省リストで絶滅危惧IA類に指定されています。マイクロサテライトマーカーを用いてハナシノブの集団遺伝解析を行うことで以下のことを明らかにしました。
    1. 草原の分断化に関連した遺伝構造と遺伝的多様性の低下1
      ハナシノブは数 km 四方という非常に狭い範囲に数集団のみが残っています。 これらの集団間で緩い遺伝的分化が検出され、それぞれの集団で遺伝的浮動の影響が検出されたことから分断化と集団サイズの縮小によって遺伝的多様性が低下した可能性があります。
    2. 栽培集団の創設と管理に伴うの遺伝的多様性の低下1
      ハナシノブのような極端に数少ない絶滅危惧種では野生集団が絶滅した場合に備えて域外保全を行う必要があります。 ハナシノブの栽培集団(域外保全集団)は野生集団に比べてほとんど稀な対立遺伝子を持っておらず、強い遺伝的浮動の影響が検出されました。 また、遺伝子型データに基づいて栽培集団で多様性を維持するための管理手法を検討しました。
    3. 埋土種子から再生した集団の遺伝的多様性と集団動態
      埋土種子から再生した集団は既存の集団にはない対立遺伝子を持っていたことから、対立遺伝子の補充という観点ではハナシノブの遺伝的多様性に寄与していました。 一方、埋土種子から再生した集団は遺伝的浮動の影響も受けており、過去十数世代で有効集団サイズが縮小したことも明らかになりました。

     その他の対象種としては、マツモトセンノウ、オグラセンノウ2、ツクシクガイソウ、ヒゴタイなどの阿蘇山系の草原に生育する絶滅危惧植物、シモツケコウホネ3、ハリママムシグサ、ミヤマハナシノブ、韓国産ミヤマトベラ4、コウヤマキ5,6 などです。
    1 Yokogawa M, Kaneko S, Takahashi Y, Isagi Y (2013) Genetic consequences of rapid population decline and restoration of the critically endangered herb Polemonium kiushianum. Biological Conservation 157:401-408.
    2 Yamasaki T, Ozeki K, Fujii N, Takehara M, Yokogawa M, Kaneko S, Isagi Y. (2013) Genetic diversity and structure of Silene kiusiana (Caryophyllaceae) in the Aso region, Kyushu, Japan, revealed by novel nuclear microsatellite markers. Acta Phytotaxonomica et Geobotanica 63: 107-120.
    3 志賀 隆・横川昌史・兼子伸吾・井鷺裕司.(2013) 全個体遺伝子型解析に基づく市場に流通する絶滅危惧水生植物シモツケコウホネ Nuphar submersa とナガレコウホネ N. flumilalis (Nymphaeaceae) の種同定と産地同定. 保全生態学研究 18(1): xx-xx(印刷中).
    4 Choi HJ, Kaneko S, Yokogawa M, Song GP, Kim DS, Kang SH, Suyama Y, Isagi Y (2013) Population and genetic status of a critically endangered species in Korea, Euchresta japonica (Leguminosae), and their implications for conservation. Journal of Plant Biology 56:251-257.
    5 Worth RPJ, Yokogawa M, Isagi Y (2014) Outcrossing rates and organelle inheritance estimated from two natural populations of the Japanese endemic conifer Sciadopitys verticillata. Journal of Plant Research 127(5):617-626.
    6 Worth RPJ, Yokogawa M, Andres PF, Tsumura Y, Tomaru N, Janes JK, Isagi Y (2014) Conflict in outcomes for conservation based on population genetic diversity and genetic divergence approaches: a case study in the Japanese relictual conifer Sciadopitys verticillata (Sciadopityaceae). Conservation Genetics 15(5):1243-1257.

絶滅危惧植物や希少植物の繁殖生態や個体群維持メカニズム

     多くの絶滅危惧生物は生息・生育地の減少や分断化によって減少していますが、その減少要因として、繁殖成功度の低下、植物であれば送粉者の減少や結実率の低下が考えられます。
     阿蘇山系の絶滅危惧植物であるハナシノブとマツモトセンノウについて、管理状態が様々な生育地において送粉者の訪花頻度や結実率を調査し、繁殖の状況と繁殖成功の低下の要因を調べています。
     また、多くの希少種と言われる植物は、ちょっと風変わりな生態や特殊な来歴を持っていて、その結果として「希少」であると考えられます。 いったいなぜ希少種が「希少」となったのか、その生態や来歴を明らかにして、その理由を調べています。具体的には、海岸植物のバシクルモンと日本唯一のバンレイシ科樹木のクロボウモドキについて調べています。

半自然草原の利用や再生に関する植生学的評価

     私が主な調査地としている場所は草刈り・放牧・火入れといった人為的管理によって維持されている半自然草原です。 草が資源としてあまり利用されなくなったことで、近年急速に半自然草原が減少しており、各地でその保全と再生の動きが高まってきています。 より効率的・科学的な保全を目指すべく半自然草原の利用や再生に関する植生学的な評価を行っています。
     熊本県阿蘇地方の管理放棄された場所において、樹林の伐採による草原再生の野外実験を行い、植生や土壌化学性の変化をモニタリングしています。また、阿蘇の様々な地点で調査した植生データを用いて管理の指標となる植物の検討を行っています1

    1 Koyanagi T, Kusumoto Y, Hiradate S, Morita S, Yokogawa M, Takahashi Y, Sato C (2013) New method for extracting plant indicators based on their adaptive responses to management practices: application to semi-natural and artificial grassland data. Applied Vegetation Science 16(1):95-109. DOI: 10.1111/j.1654-109X.2012.01204.x

都市部に残された半自然草原の謎

     都市部には自然が残っていないと思われがちですが、よくよく観察してみると面白いものが見つかります。私の調査地は、開発された都市部の住宅地の中に残る、多様な植物相からなる半自然草原です。いったいなぜ、開発されてしまった場所にこのような草原が残されているのか?まずは植物相や植生の記載的な仕事を中心に進めています。

    関連する文献
    横川昌史.(2014) 吹田市に残る小っちゃい半自然草原の謎. Nature Study 60(8): 9.

瀬戸内海の海岸の植物相と植生

     博物館に就職してから海辺に足を運ぶことが増えました。大阪湾や瀬戸内海の特別展に関わることになったからです。学生のころは海辺の植物に無縁でしたが、通いはじめるとなかなか楽しくて、自分のテーマとしても扱いたくなってきました。
     とりあえずはウロウロしながら記載的な仕事からということで、変わった植物の報告1 や植生の現状評価と過去の植生資料との比較2 を行ったりしています。

    1 横川昌史.(2015) 淡路島で見つかった逸出由来のモクビャッコウ. Nature Study 61(x): xx-xx. 詳細はこちら
    2 横川昌史.(2015) 国東半島南東部における塩生湿地および砂浜・砂丘の植生の現状と各調査地における20年間の変化. 大阪市立自然史博物館研究報告 69:1-18.

マイクロサテライトマーカーの開発

     遺伝解析のためのマーカーはたくさんの種類がありますが、その中でも超多型性であるマイクロサテライトマーカーはとても便利なマーカーです。 ゲノム中の(AC)n のような単純な繰り返し配列をもった場所をマイクロサテライト領域を呼び、繰り返しの長さの違いによって遺伝子型を判別します。 マイクロサテライトマーカーを用いた遺伝解析によって、クローン構造の評価、親子解析、遺伝的多様性や遺伝構造の評価、自殖率などの生態特性の推定、遺伝子流動や過去の集団動態の推定などができます。
     今まで、ハナシノブ1、シモツケコウホネ2、ハリママクシグサ3、イボイモリ4、オグラセンノウ5、コガクウツギ6 など様々な生物でマイクロサテライトマーカーの開発を行ってきました。
     最近は次世代シーケンサーを使ったマイクロサテライトマーカーの開発が主流になっており7、私が今まで行ってきた開発法は不要になりつつあります。一方でマーカーのスクリーニングやピークの判定は従来と変わらずまだまだ重要な技術です。
    1 Yokogawa M, Kaneko S, Isagi Y (2009) Development of microsatellite markers for Polemonium kiushianum (Polemoniaceae), a critically endangered grassland plant species in Japan. Conservation Genetics 10(5):1445-1447.
    2 Yokogawa M, Shiga T, Kaneko S, Isagi Y (2012) Development of nuclear microsatellite markers for the critically endangered freshwater macrophyte, Nuphar submersa (Nymphaeaceae), and cross-species amplification in six additional Nuphar taxa. Conservation Genetics Resources 4(2):295-298.
    3 Fukada C, Kaneko S, Yokogawa M, Kobayashi T, Ushimaru A, Isagi Y (2012) Development of ten microsatellite markers for Arisaema minus (Araceae), a vulnerable Japanese herb species. Conservation Genetics Resources 4(2):495-497.
    4 Sugawara H, Igawa T, Yokogawa M, Okuda M, Oumi S, Katsuren S, Kaneko S, Umino T, Isagi Y, Sumida M (2012) Isolation and characterization of ten microsatellite loci of endangered Anderson's crocodile newt, Echinotriton andersoni. Conservation Genetics Resources 4(3):595-598.
    5 Yamasaki T, Ozeki K, Fujii N, Takehara M, Yokogawa M, Kaneko S, Isagi Y. (2013) Genetic diversity and structure of Silene kiusiana (Caryophyllaceae) in the Aso region, Kyushu, Japan, revealed by novel nuclear microsatellite markers. Acta Phytotaxonomica et Geobotanica 63: 107-120.
    6 Ito T, Kaneko S, Yokogawa M, Song GP, Choi HJ, Isagi Y (2013) Isolation and characterization of microsatellite markers for Hydrangea luteovenosa (Hydrangeaceae), an endangered species in Korea. Korean Journal of Plant Taxonomy 43(1): 30-33.
    【参考文献】
    7 Guichoux et al. (2011) Current trends in microsatellite genotyping. Molecular Ecology Resources 11:591-611.
    論文紹介資料はこちら

半自然草原に関わる植物の民俗

     様々な半自然草原の植物が伝統的な生活や文化に利用されています。 私が特に注目しているのはお盆の時期に草原から採取した花をお墓に手向ける「盆花」という風習です。 過去の記録によると阿蘇全体でかつては約60種類の植物が盆花として利用されていました。 草原の減少や人々の生活様式の変化に伴い、草原に関わる植物の民俗利用も大きく変化していると考えられます。 盆花として利用されている植物について過去の記録と現在の利用状況を比較することで、盆花文化の変遷を調査しています。

平野部河辺林の生物群集とその保全

     平野部の河川沿いに細長く分布する河辺林はかつては各地にあったと言われていますが、開発や治水事業によってその多くが消失してしまいました。 滋賀県湖東平野では開発の影響を受けつつも比較的まとまった河辺林が残っています。 湖東平野の河辺林は河川と隣接した特殊な環境なので、周辺の暖温帯の植生には見られない山地性の植物が多く生育しており興味深いフロラを形成しています。 このような河辺林の山地性植物の生育環境の評価を滋賀県立大学在学時の卒業研究で行いました(論文書かないと…)。
     また、河辺林のあちこちに植栽された竹類の管理が行われなくなったことで放棄竹林が広がっています。 滋賀県立大学の後輩の籠くん、同期の藤澤くんと一緒にマダケの伐採が地表性甲虫相に与える影響を調べました1。 マダケの伐採によって地表性甲虫の種多様性が上がること、調査を行った場所ではマダケの伐採によって個体数を減らす種はほとんどいないことがわかりました。
     河辺林の研究は現在ではストップしていますが、私の研究人生のスタートとなったフィールドなのでいつか研究を再開したいと思っています。
    1 籠 洋,横川昌史,藤澤貴弘,野間直彦.(2013) 犬上川河辺林におけるタケの伐採が地表性甲虫(オサムシ科)の種多様性と群集構造に与える影響. 昆蟲(ニューシリーズ) 16(2): 87-96.
    【関連文献】
    前迫ゆり・野間直彦・金子有子・横川昌史・渡部俊太郎・東 義広.(2013) 滋賀県犬上川流域におけるタブノキ林の多様性保全の必要性. 地域自然史と保全 34(2): 165-179.

保全活動の簡易的な評価手法の検討

     実際に保全活動している市民によって、保全活動の効果を評価できればより効果的な活動を展開することができます。 しかしながら、研究者が行うような調査はハードルが高いため、より簡易的な評価手法が必要です。 私のメインの調査地である阿蘇山系において、半自然草原の管理を再開した場合の簡易的な評価方法やモニタリング方法を検討しています。 また、保全対象地の地主さんを中心に植物の開花フェノロジーの記録を残す活動も行っています1。 まだまだ現場のお手伝いといったレベルですが、いいモニタリング方法を開発したいところです。
      1 横川昌史・宇野公子・井上雅仁・高橋佳孝.(2013) 阿蘇東外輪山の半自然草原における植物群集の開花フェノロジーと種ごとの生活史特性の関係. 島根県立三瓶自然館研究報告 11: 1-14.

 

Last update was 23. April. 2015
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