長居植物園案内(10月)
新型コロナウイルス拡大防止のため、毎月、違った方法で植物園案内を開催しています。今月は、なるべく密にならないで済むものを観察しながら、通常通りに近い植物園案内を目指しました。植物園案内は申込制などにはせず、なるべく来館した方がみなさん楽しんでもらえるような形で続けていきたいと考えています。ご協力、よろしくお願いします。(横川)
◆アラカシ(ブナ科)
少し離れて遠目にわかることを観察しました。今の時期のアラカシ全体を見ると、枝の先にドングリが付いているのがわかります。アラカシは春に咲いた花が結実して、その年の秋にドングリが大きくなります。花は枝の先に咲くので、ドングリも枝の先に付きます。これが、同じカシの仲間でもウラジロガシやアカガシのように、春に咲いた花が、翌年の秋にドングリになる種類だと、ドングリは枝の先ではなく、その年伸びた枝の元に付きます。そうなると遠くから見たドングリの見え方が変わってきます。
◆シリブカガシ(ブナ科)
日本に自生するドングリを付ける木は春に花を咲かせるものがほとんどですが、シリブカガシは日本産のドングリを付ける木の中で唯一秋に花が咲きます。ドングリが大きくなるのも秋なので、花とドングリが同時に見られます。観察したシリブカガシはちょうど花の咲き始めで、雄しべが飛び出してブラシ状に見える雄花序と丈夫そうな軸に雌花がたくさん付いた雌花序が見られました。ドングリと花序の位置関係を見てみると、今年咲いている花は枝の先に、ドングリ(すなわち去年咲いた花)は花序が付いた枝の元に付いていました。このような位置関係からも、今なっているドングリがいつ咲いた花に由来するのかがわかります。
ドングリと花を同時につけたシリブカガシ
満開のシリブカガシ
◆カゴノキ(クスノキ科)
樹皮がうろこ状に剥がれて、シカの子どものような独特の模様をしていることからカゴノキ(鹿子の木)と呼ばれています。樹皮が独特な樹種は、樹皮で覚えてしまいがちですが、樹皮以外もよく見てみましょう。葉は少し薄くて裏が白っぽく、先の方の枝は黒っぽくなり、尖った冬芽を付ける、などの特徴があります。低地の照葉樹林に生え、大阪だと岬町などに行事で行ったときによく見られます。
◆ウラジロガシ(ブナ科)
ツバキ園・照葉樹林内を歩いていると、ドングリと葉が付いた枝が落ちていました。葉を見てみると、細長くて裏が白く、鋸歯が強いことからウラジロガシの枝です。ドングリをよく見ると、昆虫が産卵した跡が残っており、これはチョッキリの仲間が産卵して、枝を切って落としたものでしょう。枝の切り口が少しささくれていながらもきれいなので、チョッキリの仲間が落としたことがわかります。
◆アカガシ(ブナ科)
今日観察したアラカシやウラジロガシに比べて、葉の縁に鋸歯がないのがアカガシの特徴です。最近、植えられたこともあってまだドングリを付けていませんでしたが、枝をよく見ると雌花序が残っていました。これはこの春に咲いたもので、きっと来年にはドングリを付けるのでしょう。
◆ハマビワ(クスノキ科)
海岸の斜面や森林に生える樹木。葉の裏や葉柄に黄色っぽい毛がたくさん生えるのが特徴です。ちょうど花が咲いている時期で、枝のくっつくように花が密に咲く様子が観察できました。
花を咲かせたハマビワ
◆ソテツ(ソテツ科)
日本では主に南西諸島に自生する裸子植物です。南西諸島では救荒植物として利用されていたとされ、種子の中身を水にさらして有毒成分を抜いてから食用にしていたようです。ソテツの周りをよく見ると小さなチョウが飛んでいましたが、これはクロマダラソテツシジミというソテツを食べるシジミチョウの仲間です。
ソテツの葉とクロマダラソテツシジミ
◆ヒガンバナ(ヒガンバナ科)
キッチンガーデンの近くに、赤・白・黄色のヒガンバナ類が並んで生えていました。赤色のものがヒガンバナで、黄色のものがショウキズイセンです。白色のものはシロバナマンジュシャゲと呼ばれ、ヒガンバナとショウキズイセンの雑種だと言われています。シロバナマンジュシャゲは九州南部などに多いらしいです。
白色のシロバナマンジュシャゲと赤色のヒガンバナ
◆ビワ(バラ科)
ハマビワと比較してみました。葉の裏を見てみると、確かにハマビワと似ているような気がします。花の付き方も含めて似ているような気がしますが、ビワはバラ科でハマビワはクスノキ科。全然異なるグループの植物です。ビワは冬に咲くため、花が少ない時期に見られる貴重な花でもあります。
◆イヌビワ(クワ科)
これも「ビワ」という名前が付くが、ビワの仲間ではありません。果実の形を見ると確かにビワに似ているような気がします。イヌビワコバチという小さなハチが受粉を担っています。
◆スイフヨウ(アオイ科)
八重咲になるハイビスカスの仲間で、咲き始めは白色だが、気温に応じて花の色がピンクに変わります。下見で見たときは白かった花が、ピンク色になっていました。気温が高くなるとアントシアニンが合成されて赤っぽい色になるようです。隣に植えられているフヨウの花を見てみると、雌しべが5本合わさって、その軸を取り巻くように雄しべが生えていました。八重咲の花びらは雄しべが花びらになったものなので、スイフヨウの中心に花びらを絞ったような花の形は、もともとの雄しべの並びを見るととても理解しやすいです。
スイフヨウ
◆シコンノボタン(ノボタン科)
濃い紫色の花弁が5枚あり、長い雄しべが5本、短い雄しべが5本あります。よく見ると真ん中に雌しべが1本あります。雄しべに触っても花粉はつきませんが、先の方の鎌状に曲がった部分が葯で、葯の先端に穴があり、そこから花粉が出てくるようです。雄しべの曲がっている所が白く突起になっているが、これは虫を呼ぶための構造なのでしょう。実際に虫が来るときにどうなっているのかはよく観察してみないとわかりません。
シコンノボタン
◆ハリエンジュ(マメ科)
一昨年の台風で、植物園案内のあちこちにギャップができました。ギャップは、林の中で木が倒れて空があいて見える部分のことで、ギャップができると林床まで光が届いて、様々な木が生えてきて森林の世代交代が進みます。ギャップに生えている木を見てみると、アカメガシワやセンダン、エノキなどが確認できましたが、観察した場所で特に目立っていたのはハリエンジュでした。観察した場所の近くにハリエンジュの大木があり、そこから伸びてきた根から出てきた根萌芽で増えているようです。生えていたハリエンジュは直列に並んでおり、土を掘ってみると横に長く伸びる根も確認できました。