長居植物園案内(11月)

新型コロナウイルス拡大防止のため、毎月、違った方法で植物園案内を開催しています。今月は、なるべく密にならないで済むものを観察しながら、通常通りに近い植物園案内を目指しました。植物園案内は申込制などにはせず、なるべく来館した方がみなさん楽しんでもらえるような形で続けていきたいと考えています。ご協力、よろしくお願いします。(横川)

◆ケヤキ(ニレ科)
葉が黄色く色づいてきていましたが、よく見ると枝の先の一部の葉は特に茶色くなっていました。葉が茶色くなった枝は春に2週間ほど早く展葉した枝で、花が付いていた枝でもあります。この枝には果実が付いており、種子散布される際には枝ごと落ち、一緒に付いている葉は翼の役割を果たします。落ち葉の中を探してみると葉と果実が付いたケヤキの小枝を見つけることができました。

◆クスノキ(クスノキ科)
クスノキの枝をよく見ると、茶色い斑点が出ている葉があります。これはクスベニヒラタカスミカメという外来のカメムシが葉の汁を吸った跡です。枝をさらによく見てみると、クスベニヒラタカスミカメの吸汁跡が付いている葉と付いていない葉があり、付いていない葉はより枝先に集まっているように見えました。クスノキは春先に展葉しますが、夏になると新たに枝と葉を出す、いわゆる土用芽を出します。より枝先の葉が吸汁されていないというのは、おそらく土用芽に由来する葉は吸汁されていないということなのでしょう。クスベニヒラタカスミカメの発生の消長と土用芽の出るタイミングがうまくずれていたのだと思います。
クスベニヒラタカスミカメについては昆虫研究室の初宿さんのページに詳しく載っています。
https://www.omnh.jp/shiyake/Mansoniella-cinnamomi.html

◆カツラ(カツラ科)
カツラの葉も黄色く紅葉していました。カツラの落ち葉の匂いをかいでみるととてもいい香りがしました。なぜ落ち葉からいい香りがするのかはよくわかりません。大阪近郊の山だとタカノツメの落ち葉もいい香りがします。

◆シナアブラギリ(トウダイグサ科)
ちょうど大きな実がぶら下がっていました。シナアブラギリによく似た植物でアブラギリがありますが、葉柄の先端の腺の形を比べると違いがわかります。シナアブラギリの腺は葉柄にくっついていますが、アブラギリの腺には柄があり葉柄の先から飛び出します。腺点を観察しているとアリがやってきて蜜をなめていました。同じトウダイグサ科のアカメガシワの葉にも蜜を出す腺があり、アリがやってきます。
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シナアブラギリの葉
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シナアブラギリの葉柄の先の腺点

◆トチュウ(トチュウ科)
トチュウの一番の特徴は葉や果実をゆっくり引っ張って裂いてみるとゴム状の糸が出てくることです。葉の切片を作って、観察してみると、このゴム状の糸は葉の中の管から出ているようでしたがどういう役割をしているのかはわかりません。退職した植物化石担当の塚腰学芸員が言うには、トチュウの仲間の化石もゴム状の糸が出てくるようです。

◆アオギリ(アオイ科)
果実がたくさんなっていました。たくさんぶら下がっているボート状の果実、1個1個が一つの花に由来するのではなく、4個もしくは5個が1つの花に由来します。よく見ると小さな柄ごとに4個もしくは5個の果実がセットになっているのがわかります。花のころは5個の雌しべが合着しており、受粉後、果実として成長していく過程で分かれていきます。一つ一つの果実は筒状なのですが、熟すころには開いてボート状になり、縁に種子を付けた状態になります。この果実を投げてみるとくるくると回転しながら落下していくことから、風によってある程度種子が運ばれるようです。
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アオギリの果実
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アオギリの種子

◆アメリカスズカケノキ(スズカケノキ科)
樹名板はモミジバスズカケノキになっていましたが、おそらくアメリカスズカケノキではないかと思います。枝を眺めてみると丸い果実の塊がぶら下がっているのがわかりますが、どの枝もぶら下がっているのは1つだけでした。アメリカスズカケノキは果実が1だけぶら下がり、スズカケノキは果実が3から7個ぶら下がります。モミジバスズカケノキはアメリカスズカケノキとスズカケノキの雑種に由来するとされ、果実が1-3個ぶら下がります。これらの植物はプラタナスとも呼ばれ、街路樹などとして親しまれています。
さて、アメリカスズカケノキの葉を見てみると葉全体が白くなっていました。これは斑入りの品種でも紅葉でもなくプラタナスグンバイという外来のグンバイムシ(軍配の形をしているためこのような名前で呼ばれている)の仲間に葉を吸われた跡です。葉の裏や樹皮の裏を探してみるとプラタナスグンバイがたくさん見つかりました。
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プラタナスグンバイに吸汁されたアメリカスズカケノキの葉
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葉の裏で見つけたプラタナスグンバイ

◆ハルニレ(ニレ科)
北海道などに多い樹木です。大阪の周辺では、ハルニレに近縁なアキニレをよく見ます。アキニレに比べてかなり葉が大きく、左右非対称の葉形が特徴です。幹から萌芽枝が出ており、萌芽枝を見てみると四方向にコブができていました。このように若い枝にコブができるものをコブニレと呼び品種として分けられています。コブの出た枝を鋏で切ってみると、中心に丸い枝があり、その周囲にコルク質のコブができていることがわかりました。つまり、枝がぼこぼことコブになったのではなく、枝と別組織としてコブを作っているようです。このコブは外敵から枝を守るために作られるのでしょうか、役割はよくわかりません。
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左右非対称で大きなハルニレの葉
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萌芽枝にできたコブ

◆ヒメガマ(ガマ科)
大池のほとりに湿性植物帯があり、ヒメガマが結実していました。茶色いソーセージのような雌花穂の上をよく見ると細い茎が残っています。緑の細い茎の上部の茶色い部分はもともと雄花穂が付いていた部分です。ヒメガマの特徴は、このように雌花穂と雄花穂が離れ、間に茎がむき出しになることです。大阪周辺に生育するガマ科の植物はヒメガマ以外にガマとコガマがありますが、この2種は雌花穂と雄花穂がくっついて咲きます。

◆ゴキヅル(ウリ科)
ヒメガマの茎に巻き付いてたくさん果実を付けていました。ゴキヅルは水辺、特に河川の氾濫原などに生育するつる植物で、大阪では淀川や石川に生育しています。果実は上下2つの部分からなり、中に種子が入ってます。果実が熟すとふた付きのお椀のようにきれいに分かれるため、合器(ごき)のようなつるということでゴキヅルと呼ばれています。