植物園案内(12月)

大阪府の新型コロナ警戒信号が赤色になったため、博物館の行事はすべて中止になりました。残念ながら12月の長居植物園案内も中止です。その代わりとして12月18日に観察した長居植物園の植物を紹介します。(横川学芸員)

1. トキワガマズミ(ガマズミ科)
 地中海地方原産の低木で、最近、長居植物園に植えられたように思います。今年はよく花が咲き、よく果実がなっていました。紺色で金属光沢のある硬い果実をつけます。最近の研究で、この金属光沢のある紺色は色素に由来するのではなく、脂質の多層構造による構造色だということがわかったそうです。クジャクの羽やモルフォチョウやオオセンチコガネの翅など、動物では構造色はよく知られていますが、植物では珍しいようです。おそらく鳥がこの果実を食べるのだと思いますが、今のところ、あまり食べられた形跡がありません。構造色と鳥が食べることと何か関係していたら面白いので、しばらく様子を見たいと思います。
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トキワガマズミの花。
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トキワガマズミの果実。

2. サザンカ(ツバキ科)
 サザンカというと、垣根などに植栽される濃いピンクの花のイメージがあるかもしれません。そのピンクの花の多くは、ヤブツバキとサザンカを掛け合わせた園芸種で、花びらが1枚ずつ落ちます。長居植物園の照葉樹林・ツバキ園の中で見られる一重のサザンカは、花びらが白色、花びらが1枚ずつ散る、若枝や葉柄や子房に毛がある、など野生のサザンカの特徴をよく備えているが、何かしら園芸用に改良されているように思います。新鮮なサザンカの花には香りがあり、虫が花粉を運びます。
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サザンカの花。
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サザンカの葉柄。毛が生えている。
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サザンカの子房。毛が生えている。

3.センダン(センダン科)
 ちょうど落葉中の個体がありました。樹冠近くの高い枝は葉を落とし、低い枝にはまだ緑の葉がついていました。センダンは複葉と言って、たくさん小葉からなる大きな葉をつける樹木ですが、落葉したての枝を見ると葉の軸はまだ木の上に残っており、小葉が先に落ちるようです。地面を見てみると葉の軸がたくさん落ちていました。今年も果実がよくなっています。センダンの果実は鳥が食べますが、食べられる時期は遅く、おそらく年明けになっても枝にたくさん果実をぶら下げた姿が観察できると思います。
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落葉したセンダンの枝。葉の軸がまだ残っている。
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青い小葉が残っているセンダンの枝。
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落下した葉の軸。
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センダンの果実。

4.シナヒイラギ(モチノキ科)
 赤い果実がたくさんついていました。四角い葉もつけるのが特徴で、葉の縁にある棘はとても硬く触ると痛いので注意してください。雌雄異株なので果実がなっている雌株と果実がなっていない雄株があるのも見どころです。赤くて目立つ果実を付けていますが、なかなか鳥に食べられません。鳥が好まないということは、長い期間、赤い果実を楽しめるということで、園芸的には優秀と言えるかもしれません。ちなみにヒイラギと付きますが、ヒイラギとは全然違う植物です。ヒイラギはモクセイ科で赤い果実は付けません。
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シナヒイラギ。

5. カワラナデシコ(ナデシコ科)
 万葉の小路で、季節外れのカワラナデシコが咲いていました。カワラナデシコは秋の七草のひとつにも数えられることもあって、夏から秋に花を咲かせるが普通です。12月になっても花が咲いているのはあまり見たことがありません。この手の草地に生える植物は、茎が刈られたりした後にわきから芽を出して、遅れて開花するということがあるのですが、根本を観察してみたところ、切られた痕跡はありませんでした。
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カワラナデシコ。

6.イチョウ(イチョウ科)
 イチョウの落葉が進んで、黄色いじゅうたんになっていました。葉を落としたイチョウの枝をよく観察すると、長く伸びた枝(長枝:ちょうし)からゴツゴツした短い枝(短枝:たんし)が伸びているのがわかると思います。短枝は葉がたくさん付く枝で、葉が付いた分しか毎年伸びないため、寸詰まりになりゴツゴツした形になります。長枝はあらたな空間へ伸びていくための枝で、短しは葉をたくさん付けてその場で光を受けるための枝のようで、イチョウの株の中でも枝が役割分担をしていると言えるでしょう。
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イチョウの落葉。
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イチョウの長枝と短枝。

7. チャンチンモドキ(ウルシ科)
 昨年は果実の実りが悪かったのですが、今年はよくなったようで、たくさん果実が落ちていました。果実をよく見ると先端のほうに点が5つあります。少しねばねばした果肉を剥くと、中から硬いタネのようなものが出てきますが、これにも5つの穴があります。この穴から芽が5つ出てきます。日本では鹿児島、熊本県など分布が限られますが、中国南部や東南アジアにも分布し、熱帯の方では哺乳類が果実を食べて種子散布するようです。
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完全に落葉したチャンチンモドキ。
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チャンチンモドキの果実。
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チャンチンモドキの果実の中身。

8. サキシマフヨウ(アオイ科)
 秋に咲くハイビスカスの仲間で花が減ってきた季節の植物園に彩りを添える植物。さすがに12月になると花は咲いていませんでしたが、果実が熟して種子ができていました。果実を割って中を見てみると、毛だらけの種子が入っています。この毛がどのような役割をしているのか気になるところです。
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サキシマフヨウの果実。
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サキシマフヨウの種子。

9. クスノキ(クスノキ科)
 大きなクスノキの下にクスノキの枝がたくさん落ちていました。これはおそらくカラスの仕業によるものです。大阪ではカラスがクスノキやナンキンハゼの枝を落とす、という行動がよく見られます。クスノキ側の立場からすると、今、枝を落とされると来年に咲く花芽を落としていることになるので、来年の花数が減ることになります。果実だけ食べてくれた方がクスノキにとっては良いのでしょうけど、かといってすべての枝が落とされるということもないので、実際、どれぐらいのダメージなのかはよくわかりません。
 動物研の和田学芸員がカラスの枝落とし行動についてホームページにまとめています。カラスの枝落とし行動データベース↓
https://www.omnh.jp/wada/DataBase/TwigDropping.html
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クスノキの落枝。カラスの仕業らしい。
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クスノキの落枝。果実が付いたまま落とされている。

10. モクビャッコウ(キク科)
 葉に白い毛がたくさん生えていて、とても美しく、冬も葉をつけているので園芸用として割と利用される植物です。こういった銀白色のきれいな葉を観賞する植物のことを園芸業界ではシルバーリーフなどと呼んでいます。葉をかき分けて根元を見てみると、太く木化しており、低木であることがわかります。東アジアの亜熱帯から熱帯に自生し、日本では南西諸島などの海辺の岩場に生えます。もう少し早い時期だと花は黄色できれいなのですが、観察したときは花期は終わって茶色くなっていました。
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モクビャッコウ