長居植物園案内(5月)

2021年5月の長居植物園案内は新型コロナウイルス感染症拡大防止のために中止になってしまいました。行事が中止になっただけでなく、長居植物園が休園になっているのですが、現在の植物園の見ごろの植物の様子を紹介したいと思います。
最近の植物園案内では密を避けるために、細かいものを参加者の方に回してルーペや顕微鏡で観察する、ということができませんでした。このブログでは特に植物を拡大して見てみることに焦点を置いて、見ごろの植物を紹介したいと思います。このレポートをみなさんの近所での植物観察にも役立てていただけると幸いです。また、状況が落ち着いたら、ぜひ植物園案内に来てください!(横川)

◆クスノキ(クスノキ科)
 博物館から長居植物園に出てすぐのところに大木が何本かあるため、長居植物園案内ではおなじみの樹木です。一年を通していろいろ観察しています。先月は新しく出た葉と昨年出た葉の違いなどを見ましたが、今月はちょっと遅いですが花が観察できました。クスノキ科の花は変わっていて、おしべに穴が開いています。6枚の花被片(花びら)の内側にはおしべがたくさん生えており、生えている場所によって形が異なります。おしべの根本には腺と呼ばれる黄色くて丸いものがあります。花の中心には1本のめしべがあります。図鑑には花被片は6枚と書いているのですが、長居植物園で観察しているとときどき花被片が8枚の花が見つかります。このように例外的な形を見つけるのも植物観察の楽しみの一つです。

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◆カシの仲間の葉裏の比較
 春は展葉の季節。長居植物園の常緑樹林の中や周りを歩くと、ドングリを付ける常緑のカシ類がちょうど展葉していてきれいでした。この時期、枝の先端で柔らかい葉を付けている部分は今年出た枝で、そのすぐ下側が昨年出た枝や葉です。今年出たばかりの若い葉はその硬さだけでなく、色や表面の様子も昨年出た成葉と異なります。シラカシ・アラカシ・アカガシ・ウラジロガシ・イチイガシのカシの仲間5種について、成葉と若い葉の葉裏の様子を比べてました。シラカシは成葉にも若い葉にも毛がなく、若い葉は鮮やかな赤色をしていました。アラカシは成葉にも若い葉にも毛が生えており、若い葉は少し赤色。アカガシは若い葉にのみ柔らかい毛があり、これはすぐに取れて落ちるようです。写真もすでに毛が取れはじめています。ウラジロガシは成葉にも若い葉にも毛がありましたが、若い葉の方が毛がきれいです。イチイガシも成葉にも若い葉にも毛がありましたが、若い葉の方が毛が少なく、成葉になると毛の密度が上がるようです。ウラジロガシの成葉の葉裏はあまり毛のイメージがなく、また図鑑の記述でも成葉になると毛がなくなりそうなことが書いてあるのですが、観察した成葉には生えていました。野生のウラジロガシもよく見てみたいと思います。これらの毛の様子はルーペで十分見えますので、ルーペをお持ちの方は身近な樹木の葉を拡大して見てみてください。

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◆ネモフィラ(ムラサキ科)
 大型連休中に青色のじゅうたん!を狙ってライフガーデンに植えたのだと思うのですが、残念ながら休園になってしまいました。こういうたくさん植えて楽しむ植物は、きれいだなぁで終わりがちなのですが1つ1つの花を詳細に見ると楽しかったりします。ネモフィラの花に近づいてよく見てみると、花びらに5つ、毛が生える場所があります。また、花柱(めしべの軸)に毛が生えており、子房にはかなり高密度に毛が生えているのですが、おしべにはまったく毛がありません。こういった受粉に関わる器官の周りに生える毛は花に来る昆虫との関係があったりしそうですが、よくわかりません。よく見ると生えている毛も植物のお楽しみポイントです。

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◆マツバウンラン(オオバコ科)
 日当たりのよい造成地などに群生することが多い外来植物です。葉も茎も細く、華奢な感じがしますが、花茎を長く伸ばして植物体の割に大きな花をつけます。観察した日はラベンダー園の周りにたくさん花を咲かせていました。近寄って花をよく見てみると面白い形をしています。紫色のイメージがあると思いますが、花の真ん中の部分は白色です。花を横から見てみると距(きょ)と呼ばれる後ろに突き出た部分があります。この距、中に蜜でも入ってるのかなぁと思ったのですが、アメリカ合衆国でマツバウンランの研究をした論文1には、温室で栽培した花には蜜がなかったと書いてあります。また、その研究によると昆虫がやってきそうな花ですが、主に自家受粉で種子を作っていそうとのことでした。

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◆イスノキ(マンサク科)
 長居植物園の一番北側に氷期間氷期植物群と呼ばれるエリアがあります。これは、第四紀の暖かい間氷期と寒い氷期を繰り返していた時代の地層から出てくる植物に関連したものが植えられているエリアです。このエリアには間氷期の地層から化石が出るというイスノキが植えられています。イスノキをよく見てみると、丸く膨らんだ部分がある葉に気づきます。これはアブラムシが作った虫こぶです。アブラムシがつくことで葉の形が変わってしまっており、この中にアブラムシがすんでいます。この虫こぶは表から見ると丸いのですが、裏から見ると先がとんがっているのも特徴です。虫こぶを割ってみると中にはアブラムシの幼虫がたくさん入っていました。イスノキは、葉以外にも虫こぶができ、虫こぶの種類が多い植物です。西宮市の約40万年前の間氷期の地層からはイスノキの枝にできる丸くて大きな虫こぶの化石がでています2。長居植物園のイスノキの説明板によると、イスノキの葉の化石で穴が空いているものがあり、それは葉にできた虫こぶなのではないかとのこと。

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◆ワタゲツルハナグルマ(キク科)
 大池の北側の木道わきでワタゲツルハナグルマの鮮やかな黄色い花が満開でした。学名のカタカナ読みでアークトセカなどとも呼ばれる外来植物で、匍匐枝を良く伸ばして増えるためグラウンドカバーにも使われるようです。長居植物園でもこの一画を覆うように生えています。大きくてきれいな黄色い花に目が行きがちですが葉の裏が真っ白なのも観察ポイントです。外来植物の図鑑に載っているのですが、私は野外で野生化してるなぁというのはまだ見たことがありません。大阪で野生化していそうなワタゲツルハナグルマを見つけたらぜひ教えてください。

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◆アサザ(ミツガシワ科)
 大池の北側に最近植えられたと思われます。アサザは異型花柱性と言って、花によっておしべ・めしべの長さが異なります。めしべが長い花を長花柱花、めしべが短い花を短花柱花、おしべ・めしべの長さが同じぐらいのものと等花柱花と呼びます。長居植物園に植えられているものは、観察した範囲では長花柱花ばかりでした。アサザは日本各地の水辺で少なくなっており、各地のレッドデータブックに絶滅危惧植物として記載されています。大阪では情報不足として扱われていて、その現状がよくわかっていません。アサザは観賞用の水生植物として広く流通していることもあり、自生地が見つかった場合に自生かどうかの判断が難しく、各地に栽培株が逃げ出したと思われるアサザの個体群があります3。最近、大阪で見つかったアサザの個体群も自生なのか栽培株が逃げ出したものなのかよくわかっていません4。意図的・非意図的に関わらず、人が生き物を逃がしてしまうことで、野生生物の実態がわからなくなる、ということはとてもよくないことなので、お家で育てている生き物は絶対に逃がさないように注意してください。

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◆ムラサキサギゴケ(サギゴケ科)
 様々な園芸植物が植えられている花壇にムラサキサギゴケも植えられていました。ムラサキサギゴケは大きな花を付け、走出枝と呼ばれる横に這う茎をのばすのが特徴です。ちょうど花壇の枠に走出枝をのばしており、その様子がよくわかりました。ムラサキサギゴケの花を拡大して見てみましょう。花の真ん中には黄色い点々が出ている部分があり、よく見るとたくさん毛が生えています。花を分解してみると、おしべは4本あり、2本ずつセットになっていました。めしべは1本で、めしべの先、柱頭は上下に2つに割れており、なんだか口を開けているような形になっています。この、口を開けたようなめしべに触れるとめしべが閉じます。野外でムラサキサギゴケを見つけたときに覚えていたら触ってみてください。野生下でめしべに何かが触れる、という状況は花に来る昆虫がやってきたときだと思います。ムラサキサギゴケを観察していて、めしべが閉じている花を見つけたら、直近でその花に昆虫がやってきたということだと思います。
 ちなみに、最近の図鑑では、この植物の呼び方はムラサキサギゴケという和名ではなくサギゴケという和名が使われていることが多いです。ここではあえてムラサキサギゴケという和名を使いましたが、その理由については、大阪市立自然史博物館の友の会会誌Nature Studyに書きました5。興味がある人は読んでみてください。

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1 Crawford P.T., Elisens W.J. 2006. Genetic variation and reproductive system among North American species of Nuttallanthus (Plantaginaceae) American Journal of Botany 93(4):582-591. https://doi.org/10.3732/ajb.93.4.582
2 Tsukagoshi M., Sawada K., Akimoto S. 2019. A fossil aphid gall from the middle Pleistocene sediment in Hyogo Prefecture, western Japan. Entomological Science 22(3):270-274. https://doi.org/10.1111/ens.12370
3 藤井伸二・上杉龍士・山室真澄 2015. アサザの生育環境・花型・逸出状況と遺伝的多様性に関する追試.保全生態学研究 20(1):71-85. https://doi.org/10.18960/hozen.20.1_71
4 志賀 隆・武林周一郎 2008. 淀川本流沿いでアサザを発見.Nature Study 54(12):164-165.
5 横川昌史 2019. ムラサキサギゴケの和名の変遷.Nature Study 65(12):154-157.