ミニ展示「植物の標本を使って研究する」 令和7年2月は紀伊半島のシロバナネコノメソウの分類学的研究に関する標本を紹介します

 大阪市立自然史博物館では、所蔵する植物標本を使った研究を月替わりで紹介するミニ展示を開催中です。本展示は、令和6年6月1日(土)から令和7年6月1日(日)まで、本館1階ナウマンホールにてご覧いただけます。第8回となる令和7年2月の展示では、Oda et al. (2020)による、紀伊半島のシロバナネコノメソウの分類学的研究に関する論文と関連標本を紹介します。

 ユキノシタ科ネコノメソウ属には日本産の種が多く知られていますが、その中のシロバナネコノメソウについては、紀伊半島にいくつかの変種が確認されています。これらの変種は形態が似ており、調査が不十分なこともあって、それぞれ分類学的な問題を抱えていました。近畿植物同好会の織田二郎さんたちは、シロバナネコノメソウの変種の謎を解くため、京都大学・岐阜県博物館・東京都立大学牧野標本館・大阪市立自然史博物館の植物標本室で286 点のさく葉標本を調べ、紀伊半島各地で精力的な野外調査を行いました。採集した株を栽培し、形態や染色体を比較しました。

 その結果、記載以降ほとんど情報がなかった紀伊半島南部に分布する変種キイハナネコノメは、形態的に区別可能で、分布が紀伊半島南部に限られることがわかり、調査を通して新たな生育地も多数確認されました。また、キイハナネコノメの分布域よりも少し北に分布する集団は、形態的にも区別でき、分布域も異なることから、新変種トツカワハナネコノメとして記載されました。さらに、紀伊半島北部の集団は、これまでハナネコノメとされることもありましたが、本研究により、狭義のシロバナネコノメソウと同定されました。

 本研究のように、過去に採取された標本の比較と徹底した野外調査・観察を通じて分類学的な謎を解明することは、標本を使った研究の中でも最も基礎的で重要なアプローチといえます。 なお、本研究では開花期についても重要な知見が得られました。シロバナネコノメソウの開花期は3月下旬から4月下旬ですが、キイハナネコノメは2月上旬から3月中旬、トツカワハナネコノメは2月下旬から3月下旬と、それぞれ開花期がより早いことが確認されました。そのため、これらの開花期に合わせて、2月に本研究を紹介します。

2月に紹介する研究: Oda J, Naito A, Ohmori H, Ichikawa M, Yamawaki K, Suzuki H, Nagamasu H. 2020. A Taxonomic Study of Chrysosplenium album (Saxifragaceae) in the Kii Peninsula, Japan. The Journal of Japanese Botany 95(4):193-210.

論文のリンク:https://doi.org/10.51033/jjapbot.95_4_11023

ミニ展示の概要については過去のWhat‘s new『ミニ展示「植物の標本を使って研究する」を開催します』(https://omnh.jp/archives/11362)をご覧ください。

※なるべく月替わりで展示を入れ替えますが、担当者の都合で入れ替えが数日前後することがあります。ご了承ください。

令和7年2月の展示:紀伊半島のシロバナネコノメソウの分類学的研究を紹介する展示の様子。本研究で新変種として記載されたトツカワハナネコノメの標本と、詳細が明らかになったキイハナネコノメの標本を展示します。これらの標本は論文中で引用されており、分類学的研究を進めた研究者の見解が付された重要な標本です。

本展示に関する問合せ:植物研究室・横川