ミニ展示「植物の標本を使って研究する」 令和6年11月は外来植物ナガエアズマツメクサの発見に関する論文を紹介します

 大阪市立自然史博物館では、所蔵する植物標本を使った研究を月替わりで紹介するミニ展示を開催中です。本展示は、令和6年6月1日(土)から令和7年6月1日(日)まで、本館1階ナウマンホールにてご覧いただけます。

 第6回となる令和6年11月は、Fujiiほか(2019)による、外来植物ナガエアズマツメクサおよびアズマツメクサモドキの発見に関する研究を紹介します。

 アズマツメクサは河川の氾濫原や低湿地に生えるベンケイソウ科の在来植物です。2015年、論文の著者である藤井さんたちは、アズマツメクサによく似た植物を複数発見し、形態を詳しく検討したところ、これらは日本では未発見の外来植物であるナガエアズマツメクサとアズマツメクサモドキであることを突き止めました。さらにこれら3種類のDNAの塩基配列を調べたところ、遺伝的差違が大きいこともわかりました。

 在来植物のアズマツメクサは果実の柄が無いのに対して、外来植物であるナガエアズマツメクサとアズマツメクサモドキは果実の柄が長いことや、果実期の植物体の色・種子の表面の模様などで区別できます。これらの識別形質を基に各地の標本室の標本を調べたところ、アズマツメクサと同定されていた標本の中に、ナガエアズマツメクサが含まれていることがわかりました。アズマツメクサは各地のレッドリストにも掲載されている絶滅危惧種ですが、外来植物と混同されていたことは保全上の大きな課題です。今回の研究成果を受けて、各地のアズマツメクサの同定の再検討が望まれます。

 11月に紹介する研究: Fujii S., Yamashiro T., Horie H., Maki M. 2019. Crassula peduncularis and C. saginoides (Crassulaceae), Newly Naturalized in Japan, and their Genetic Differences from C. aquatica. Acta Phytotaxonomica et Geobotanica 70(2):119-127.

論文のリンク:https://doi.org/10.18942/apg.201818

 ミニ展示の概要については過去のWhat‘s new『ミニ展示「植物の標本を使って研究する」を開催します』(https://omnh.jp/archives/11362)をご覧ください。

※なるべく月替わりで展示を入れ替えますが、担当者の都合で入れ替えが数日前後することがあります。ご了承ください。

2024年11月に紹介するナガエアズマツメクサおよびアズマツメクサの標本。

左:2009年に大阪府枚方市で採集されたナガエアズマツメクサの標本。オリジナルのラベルではアズマツメクと同定されているが、よく見ると果実の柄が長く、ナガエアズマツメクサと再同定されている。

右:1966年に大阪府田尻町で採集されたアズマツメクサの標本。在来植物で絶滅危惧種であるアズマツメクサの大阪府の確実な記録は古い泉南地域ものが多いが、これらの場所では絶滅したと思われる。

2007年に淀川で「アズマツメクサ」が見つかったことで、大阪府レッドリスト2000で「絶滅」判定であったアズマツメクサは、大阪府レッドリスト2014では「絶滅危惧I類」にランクが変更された。しかしながら、今回の研究成果を元に淀川の「アズマツメクサ」を再検討すると、その多くはナガエアズマツメクサであったため、レッドリストでの扱いについて再検討が必要となる。

本展示に関する問合せ:植物研究室・横川