前川匠学芸員が日本古生物学会論文賞を受賞しました
当館にこの4月より古生物担当の学芸員として着任した前川匠学芸員が、2020年度の日本古生物学会論文賞を受賞しました。受賞論文は愛媛県西予市城川町田穂にある石灰岩体(田穂石灰岩)から産出した多数のコノドントのエレメント化石を記載してその地質年代を明らかにするとともに、東はインド、西はアメリカ西部に分布する同時代の地層と正確に生層序対比が行えることを示したものです。本論文は前川学芸員が熊本大学所属中に出版したもので、博士論文の指導教官である熊本大学の小松俊文准教授、元横浜国立大学教授で現在も国内外のコノドント化石を研究しておられる小池敏夫博士との共同研究です。
コノドントとは:古生代カンブリア紀~中生代三畳紀まで生息していた海生生物で、脊索動物または原始的な魚類と考えられています。コノドントの軟体部は化石として地層中に保存されることは稀ですが、その頭部の採餌器官を構成する複数のパーツ(エレメント)はリン酸カルシウムを主成分とするため地層中に良く保存されます。そのため、その生息期間を通じて地層の地質年代を決定したり異なる地域の地層を対比する上で重要な示準化石となっています。
生層序とは:生層序とは、化石(生)が連続した地層(層)から産出する順序(序)のことです。化石を調べると、同じ海や陸で形成された地層でも、見つかる化石が時代ごとにその種類や構成が異なっていることが分かります。生層序に基づいて地層の形成された地質年代を調べる研究を生層序学と言い、層序学の一分野に当たります。層序学では、地層を形成する岩石の種類やその積み重なり方をある地域間で比較(層序対比)しますが、生層序学では化石の産出する期間などを基にして地層を対比します(生層序対比)。生層序対比には、アンモナイト、三葉虫、コノドントや放散虫など種分化のスピードが早く、分布が広く、産出量も豊富ないわゆる示準化石を用います。そのため、より離れた地域の地層を同じ時代に形成されたものとして認識できるようになります。
田穂石灰岩とは:愛媛県西予市にある「四国西予ジオパーク」のジオサイトの一つです。前期三畳紀のアンモナイト化石が含まれることでも知られています。詳しくは四国西予ジオパークの紹介ページをご確認ください(http://seiyo-geo.jp/c/geopoint/g7-tahos_limestone/)。
受賞論文:Takumi Maekawa, Toshifumi Komatsu & Toshio Koike. 2018. Early Triassic conodonts from the Tahogawa Member of the Taho Formation, Ehime Prefecture, Southwest Japan. Paleontological Research, supplement to vol. 22: 1-62. (西南日本の愛媛県に露出する三畳系田穂層の田穂川部層から産出した前期三畳紀のコノドント化石)
https://doi.org/10.2517/2018PR001
■コノドントについてもっと知りたい人のために
・国立科学博物館の紹介ページ:https://www.kahaku.go.jp/research/db/botany/bikaseki/2-konodonto.html
・コノドント館(群馬県みどり市大間々町)のページ:https://www.city.midori.gunma.jp/conodont/
・コノドント化石の論文:猪郷久義『新しい示準化石-コノドント-』:https://doi.org/10.5026/jgeography.81.3_142(PDFファイルをダウンロードできます)
・コノドント化石の分類学的位置についての最新のレビュー論文:上松佐知子・鎌田祥仁『付加体深海堆積物相における中・古生代微化石研究の最近の進展:放散虫およびコノドント研究の現状と将来の展望』:https://doi.org/10.5575/geosoc.2018.0068(PDFファイルをダウンロードできます)
田穂石灰岩から産出したエレメント化石の写真