2023年1月のマッコウクジラのストランディングと標本化に関する経緯について
この度の淀川に迷入したマッコウクジラについて、大阪市立自然史博物館は1月9日に発見されて以来、注視してきました。外部からの観察でオスのマッコウクジラとわかり、様々な映像を通じ、当初報道された8mよりは大きなものに思えました。
当館では動物研究室の学芸員を中心に、鍋島外来研究員(元大阪府立環境農林水産総合研究所主任研究員)など大阪湾の生物に詳しい関係者などと連絡を取りながら情報交換を重ねてまいりました。自力での沖合への回遊を期待していましたが、残念ながら13日に死亡が確認されました。以降、当館では大阪市博物館機構を通じて大阪市の関係部局に標本化の希望を伝えてまいりました。
マッコウクジラはオスとメスでは大きく形状が異なります。平成22年に回収し当館に展示中のマッコウクジラはメスの個体ということもあり、館内での議論を経て、オスの標本は当館としてはぜひ入手したいと標本取得希望の意向を伝えてきたことは各種報道にあるとおりです。
ただし、標本化には資金だけでなく、処理をする土地、重機の手配などが必要となります。博物館単独でこれらすべてを行うことはできません。一般財団法人 日本鯨類研究所(以下、日鯨研)が実施する補助金活用案なども伝えてきましたが、補助や支援を受けるためには自治体による申請も必要となります。このため、当館は大阪市の関係部局に対し、日鯨研などと協力した調査と処理の手順について情報を提供してまいりました。
行政としての方針決定を受けない限り、博物館単独での実施はできないことは、当初から理解しています。当館からは、調査によってどのようなことがわかるのか、標本化の意義はどこにあるのかなどをお伝えしてまいりましたが、1月17日に大阪市が投棄の方針を発表しました。解体場所の確保や悪臭対策など様々な事情を勘案しての総合的な判断だと思われます。
大阪市立自然史博物館はクジラに限らず、動物、植物、化石や地質資料に至るまで、大阪の自然の変化を記録してきた標本を集めて保存・活用してきました。過去の自然を知るための資料だけでなく、現在を記録し、将来に伝えるための資料を集めて保存する活動を続けています。今回のマッコウクジラも、単なる展示物としてではなく、大阪湾、そして太平洋の現在を知る事ができる重要な標本になることを期待して取得を希望しました。
1月18日、投棄に向けた作業の合間を縫って、国立科学博物館を始めとする調査チームに当館も学芸員を派遣し、非常に限られた時間ではありましたが最小限の調査を行い、関係者のご理解で計測とサンプリングを行うことができました。限定的ながらも、このクジラが成長してきた海の環境を推定することにつながるものと期待しています。この成果は、いずれ何らかの形で市民の皆さんに公開したいと考えています。
大阪市立自然史博物館は、これからも大阪を取り巻く自然を明らかにし、後世に伝えるための資料収集を着実に進めていきます。みなさんのご理解とご支援をよろしくおねがいします。
2023年1月19日
大阪市立自然史博物館 館長 川端清司