長崎県の「絶滅種」スナヤツメ南方種を100年ぶりに再発見
当館の松井彰子学芸員および福岡工業大学の乾隆帝氏を含めた研究チームにより、長崎県版レッドリストにおいて「絶滅種(EX)」に選定されている淡水魚、スナヤツメ南方種 Lethenteron sp. S.が約100年ぶりに長崎県で発見されました。
生息地は、スナヤツメ類の生息に必要な良好な水質、植生帯を伴う砂泥底環境、人工護岸が一切ない自然区間が残っており、本種の生息環境として良好な様子が伺えました。その生息範囲は広くはないものの個体数も少なくはなく、生息状況は比較的健全であると考えられます。今回発見された個体群は、現時点で長崎県内唯一であると同時に、本種の分布の西限にあたります。この個体群は、生物多様性保全上も生物地理学的にもきわめて重要かつ貴重なものであり、今後、生息河川の環境が改変され絶滅することがないよう、スナヤツメが生息できる健全な自然環境の保全をはじめとした保全対策を早急に講じる必要があると考えられます。
長崎県におけるスナヤツメ類の記録は、大正三年(1914年)に報告された標本目録の中に「スナヤツメ」として載っているのみで、以後の採集記録が一切ありませんでした。また、この標本目録に掲載された標本は、1945年8月9日の長崎市への原子爆弾の投下により滅失し、標本は現存していません。この標本は、スナヤツメ類の分布域から判断して、スナヤツメ南方種であったと考えられます。
ところが、2015年8月13日に長崎県西海市の河川において、スナヤツメ類の幼生が採集され、さらに2022年11月2日にも同じ河川で成体と幼生が採集されました。これらの標本を形態的・遺伝的に分析したところ、「スナヤツメ南方種」と同定され、長崎県におけるスナヤツメ南方種の約100年ぶりの記録となりました。これらの標本は、大阪市立自然史博物館に登録・収蔵されています。
■今回の再発見に関する論文は、Ichthy, Natural History of Fishes of Japan 33巻に掲載されました。下記ホームページで論文の記事を無料で閲覧することができます。
https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/ichthy/INHFJ_2023_033_027.pdf
<論文情報>
題名:長崎県から 100 年ぶりに再発見されたスナヤツメ南方種の記録
雑誌名:Ichthy, Natural History of Fishes of Japan
著者:松井彰子(大阪市立自然史博物館)・乾 隆帝(福岡工業大学)・深川元太郎(長崎県食品衛生協会)・中島 淳(福岡県保健環境研究所)
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