長田庸平学芸員が日本環境動物昆虫学会奨励賞を受賞しました

当館の昆虫担当の長田庸平学芸員が、日本環境動物昆虫学会において、2023年度の奨励賞を受賞しました。

本学会の奨励賞は、環境動物昆虫学の進歩に寄与する優れた研究業績を挙げ、将来の発展が期待されると認められる40歳未満の若手会員に贈るものです。

受賞者:長田庸平(大阪市立自然史博物館)

賞の名称:日本環境動物昆虫学会奨励賞

受賞日:2023年11月25日

題目:有害小蛾類の形態・分子情報に基づく識別法の開発

<研究概要>

 農林業や生活空間において有害な小蛾類は数多く知られており、人々にとっては身近な存在です。さらには、外来種も知られており、分布を拡大させています。しかし、小蛾類は種の同定が困難であることが多く、識別は容易ではありません。そのため、これらの有害小蛾類の防除のために、正確かつ迅速な種の識別法の開発が求められています。受賞者は、これらの問題を解決するために、以下の課題に取り組んできました。

1.シイタケ害虫のシイタケオオヒロズコガ属の形態と分子による識別法の開発

林業におけるシイタケ害虫のシイタケオオヒロズコガ属(ヒロズコガ科)は種間で斑紋が酷似しており外見による種の識別が困難であるが、交尾器形態や分子情報による識別が可能であることを示しました。

2.貯穀害虫コクガとその近縁種との形態と分子による識別法の開発

貯穀害虫であるコクガ(ヒロズコガ科)には近縁種が国内で複数確認されており、斑紋・交尾器形態・分子情報による識別が可能であることを示しました。また、幼虫は近縁なウスイロコクガとは頭部の刺毛で識別できることを確認しました。

3.薬用マンネンタケ害虫のマダラオオヒロズコガと近縁種の形態による識別

韓国でマンネンタケ害虫として問題になっているマダラオオヒロズコガ(ヒロズコガ科)は、近縁なヤエヤママダラオオヒロズコガとは交尾器形態で識別できることを明らかにしました。

4.シイタケの潜在害虫のアトモンヒロズコガの蛹形態の記載

過去にシイタケを食害したことのあるアトモンヒロズコガ(ヒロズコガ科)の蛹形態の記載が記載されました。栽培の現場において、蛹殻による同定に関する基礎的な情報となります。

5.農業害虫コカクモンハマキ属の分子による識別

農業害虫コカクモンハマキ属(ハマキガ科)のリンゴコカクモンハマキとチャノコカクモンハマキはどちらも広食性で斑紋や交尾器がよく似ており、識別は非常に困難です。分子情報による識別を試みたところ、明瞭に区別できることを再確認しました。

6.園芸害虫の外来種アメリカピンクノメイガの幼生期の記載

近年、アメリカ原産のサルビア属を食害する園芸害虫アメリカピンクノメイガ(ツトガ科)が日本国内で発生しています。幼生期における種同定を可能にするために、幼虫・蛹の形態が記載されました。

7.貯穀害虫ナガバヒロズコガの幼生期の形態記載

貯穀害虫のナガバヒロズコガ(ヒロズコガ科)は生活史がほとんど不明でした。最近、精米機の米ぬかを摂食することが確認され、幼虫と蛹の形態が記載されました。

これらの研究業績は、環境動物・昆虫分野とその防除における将来性豊かな優れたものとして高く評価され、表彰されました。

写真:左が長田学芸員。右は学会長の平林公男先生。