ミニ展示「植物の標本を使って研究する」 令和6年10月は大阪府のヤマトウミヒルモの生育状況を調べた研究を紹介します

 令和6年6月1日(土)~令和7年6月1日(日)の間、大阪市立自然史博物館 本館1階ナウマンホールにて、博物館が所蔵する植物標本を使った研究を月替わりで紹介するミニ展示を開催中です。

 第5回となる令和6年10月は、柏尾ほか(2024)による、大阪府の長崎海岸沖で確認されたヤマトウミヒルモの生育状況を調べた研究を紹介します。ヤマトウミヒルモは花や実を付ける種子植物でありながら、一生を海中で過ごす「海草」(うみくさ)です。きしわだ自然資料館の柏尾翔さんたちは、大阪府内では生育状況が不明だったヤマトウミヒルモについて、大阪湾南東部に位置する長松海岸沖で詳細な調査を行い、その現状を明らかにしました。水中ドローン撮影と潜水調査の結果、長松海岸沖の少なくとも3地点でヤマトウミヒルモと思われる植物の生育が確認されました。中には比較的広い範囲に生育している場所も見つかっており、海岸の開発が著しい大阪府であっても長崎海岸沖にはヤマトウミヒルモが生育できる良好な環境が維持されてきたと考えられます。研究の中では大阪府内で過去に採られたヤマトウミヒルモの標本から生育地に関する検討を行い、新たに標本を採集して、博物館に寄贈しています。

 本研究は、海中の調査が得意な海産動物の研究者たちが行ったことも特筆すべきです。植物の研究者は海で潜水調査をすることはまずなく、大阪府レッドリスト2014では、ヤマトウミヒルモは「情報不足」となっていました。今回、海産動物の研究者たちによってヤマトウミヒルモの生育状況が明らかになったことで、大阪府レッドリストのランク付けの改訂が望まれます。

10月に紹介する研究:柏尾翔・松井彰子・田中広樹・藤本龍之介2024. 長松海岸(大阪府泉南郡岬町)沖で確認されたヤマトウミヒルモ.きしわだ自然資料館研究報告 9:25-30.

論文のリンク:https://www.city.kishiwada.osaka.jp/site/shizenshi/kishiwada-kenkyuhoukoku9kanpou10.html

ミニ展示の概要については過去のWhat‘s new『ミニ展示「植物の標本を使って研究する」を開催します』(https://omnh.jp/archives/11362)をご覧ください。

※なるべく月替わりで展示を入れ替えますが、担当者の都合で入れ替えが数日前後することがあります。ご了承ください。

2024年10月に紹介するヤマトウミヒルモの標本。左:1980年に大阪府岬町谷川で採集された標本。今回の調査地よりも西に3kmほど離れた場所で採られており、岬町の沖にはヤマトウミヒルモが広く分布していたようだ。右:論文著者の柏尾さんが採集して大阪市立自然史博物館に寄贈した標本。海中の標本を採集できる機会は少ないため、レッドリスト改訂などにも活かされる貴重な標本となる。

本展示に関する問合せ:植物研究室・横川